黒いキツネ

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 辰郎(たつろう)は札幌に住むサラリーマン。独身で、寂しい日々を送っている。早く結婚したいと思っているが、なかなか縁に恵まれない。  辰郎は北海道の農村に生まれた。中学校までを実家で過ごし、高校から札幌に住み始めた。その頃から今のマンションに住んでいる。寂しいと思った事はないが、結婚できない、恋に恵まれないと感じると、寂しさを感じる。 「さて、今日も行くか」  辰郎は今日もいつものように出勤した。まずは最寄りの地下鉄の駅に向かう。高校時代からそうしていて、とても慣れている。歩いているうちに、巨大なチューブのようなものが見えてきた。これが札幌の地下鉄だ。札幌の地下鉄には、少し地上区間があるが、雪対策のために雪覆いに覆われている。  と、辰郎は道端で黒いキツネを見つけた。ここ最近、街中でもキタキツネを見かけるらしいが、これもそうだろうか? 辰郎をじっと見ている。辰郎の事が好きなんだろうか? 「あれっ、この狐は?」  辰郎は首をかしげた。家族はいないんだろうか? もう独り立ちしたんだろうか? 「こやーん」  キツネはかわいらしそうに鳴いている。聞くだけで癒される。どうしてだろう。  辰郎はキツネを撫でた。キツネは嬉しそうな表情だ。 「可愛いな。だけど、早く仕事に行かないと」  だが、仕事がある。早く行かないと。遅刻は厳禁だ。  辰郎は寂しそうに歩いていた。歩いている人は多くいるが、誰も辰郎に注目していない。まるで辰郎に興味がないようだ。 「寂しいな・・・。早く結婚したいな」  辰郎は時間を見た。もうすぐいつも乗っている電車が来る。早く駅に向かわないと。乗り送れたら遅刻するかもしれない。急ごう。 「おっと、もうすぐ電車が来ちゃう」  辰郎は走り出した。その様子を、キツネはじっと見ている。キツネは何かを考えているように見える。だが、誰もそれに気づいていない。  辰郎は地下鉄の駅のホームにやって来た。ちょうど地下鉄の電車が来る所だ。札幌の地下鉄はレールが1本で、車輪ではなくゴムタイヤで走る。まるで新交通システムのようで、日本の他の地下鉄にはない特徴だ。ゴムタイヤなので、加速力が高いようだ。 「ふぅ・・・。何とか間に合った」  辰郎は地下鉄に乗った。車内には多くの人が乗っている。今はラッシュアワーで、大量の乗客が乗っている。  辰郎は息を切らしている。何とか間に合ったからだ。  辰郎はいつものように仕事を終え、家に向かっていた。辰郎は疲れていた。だが、明日も仕事がある。まだここでへこたれてはいけない。 「さて、もうすぐ家だ」  だが、その前にコンビニによって、晩ごはんを買わなければならない。ある程度買っているが、日持ちの良くないものを買っていく。明日も仕事の日はいつもやっている事だ。  辰郎はコンビニにやって来た。コンビニには何人かの人が並んでいる。これもいつもの事だ。 「今日買うものは、これとこれと」  辰郎は会計に向かった。いつもの店員だ。辰郎はIC乗車券を出し、代金を支払った。いつもの光景で、つまらなくなっているが、これが一番だ。  辰郎はコンビニから出てきた。辰郎はサラダと惣菜とスナック菓子を買ってきた。いつもこれを買っている。インターネットをしながら、スナック菓子を食べるのが普通だ。 「はぁ・・・」  辰郎はため息をついた。いつまでこんな孤独な日々があるんだろう。早く結婚したいと思っているのに。  辰郎はマンションの自分の部屋の前にやって来た。マンションは静かだ。朝は賑やかだったのに。朝の騒然とした雰囲気がまるで嘘のようだ。  辰郎は鍵を取り出し、開けようとした。だが、鍵がかかった。 「あれっ、鍵が・・・。閉め忘れたかな?」  辰郎はまた鍵を開け、中に入った。消したはずなのに、明かりがついている。今朝は明かりを消してから帰宅しているのに。いつもそうなのに。どうしてだろう。 「あれっ、電気消したよな・・・」  辰郎は奥に進んだ。すると、台所では知らない女性が料理を作っている。この女性は誰だろう。その女性は、黒いキツネのエプロンを付けている。全く会った覚えがないのに、誰だろう。辰郎は首をかしげた。 「あれっ、君は?」 「おかえりなさいませ、ご主人様!」  辰郎は驚いた。まるでメイドのようだ。 「き、君、誰?」 「今日から私が付き合ってあげる」  急に何だろう。だけど、嬉しいな。辰郎は歓迎したが、少し戸惑っている。急な事だからだ。 「あ、はい・・・。あ・・・、ありがとう・・・、ございます・・・」  辰郎は着替えて、手を洗うと、机に座った。すでに晩ごはんはできている。辰郎はすぐに食べ始めた。今日はカレーライスだ。とてもおいしそうだ。いつもはレトルトで買うか、近くで外食だが、今日は手作りだ。 「おいしい?」 「うん!」  辰郎は嬉しそうだ。まさか、カレーライスを作ってもらうとは。手作りのカレーライスなんて、実家でしか食べない。辰郎がおいしそうに食べている様子を見て、女性は笑みを浮かべている。  辰郎は食べると、テレビを見ている。面白そうなテレビはあまりないが、女性が見ているので、見ている。女性はバラエティ番組に興味があるようだ。  しばらくテレビを見ていると、お風呂の時間になった。 「お風呂行ってくるね」 「うん!」  辰郎はバスタオルとタオルを持って、ユニットバスに向かった。女性はその様子をじっと見ている。  20分ほど経って、辰郎はお風呂から出てきた。女性はテレビを見ている。辰郎は思った。見てもいない女性が、どうしてここにやって来たんだろう。 「うーん・・・」 「どうしたの?」  何を考えているんだろう。女性は話しかけた。悩んでいる事があれば、話してほしいな。 「全く知らない子なんだけど、どうしたの?」 「いや、今朝の様子を見て、惚れて」  今朝の様子って、何だろう。駅に向かうまでだろうか? 地下鉄の中だろうか? 職場までの道だろうか? 「ふーん・・・」  しばらく経って、辰郎はネットサーフィンを始めた。女性はその様子を全く気にせず、テレビを見ている。  ふと、辰郎は女性を見た。その姿を見て、辰郎は驚いた。女性の頭からキツネの耳、尻からは尻尾が出ている。 「えっ!?」  まさか、今朝見た黒いキツネ? 辰郎は呆然となった。女性は何ともないようにテレビを見ている。
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