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天界は大騒ぎ
「大変だ! 人間の魂がくぐる、天への入り口が壊された!」
「どうするつもりだ? 魂があふれ出すぞ」
羊たちの群れが亀裂に飲み込まれてからさほど時をおかず、天界では大騒ぎ。
「時空に亀裂が――しかも今はそこから、忘却の河レテに繋がってるだと?」
「めちゃくちゃだー!」
神々は右往左往の大混乱に陥っていた。
この事態を知った者から徐々に、不安と焦燥が広がっていく――
このままだとマズい。何とかせねば。
危機感により一致団結する神々。
まず、過去見の宝珠でもって、情報収集がなされる。それを元に分析。その後、占術仙術ありとあらゆる神々の叡智をもって、何とか解決方法が示されることとなった。
そして今、天への入り口の亀裂が引きおこした混乱をおさめるための対策会議が始まる。
「すると、この事態の原因は、パン神の暴走が元というか」
「然り」
「ふだん怒らぬ奴がやらかすと怖いのぅ」
「では、あの時空を切り裂く亀裂は、如何にして塞ぐのか?」
「これをもちまして――」
恭しく差し出されたのは、3つの宝珠。
3つとも寸分違わす同じもので、色味はなく透明な輝きを放っている。
「これなるは、我が秘術によって生み出された要石。この3つの宝珠を然るべき場所へ設置できれば、まずは天への入り口を補修しつつ、亀裂を塞ぐことはできましょう。しかし――」
ここで、言いよどむ。
「なんだ? もったいぶるな。何が問題だ?」
「忘却の河レテが……かの河を押し戻すには、力が足りませぬ。いったい何故、天への入口からの亀裂が忘却の河レテとつながってしまったのか――」
「さもありなん。冥府に流れる忘却の河レテだが、人間の魂が昇る天への入り口に惹かれたのだろうよ。どちらも魂を扱うからの」
「何とやっかいな。他に手はないのか?」
「そ、それと……この事態への解決となりうる要石はできましたが、その、あの、……設置に問題が」
要石を両手で握りしめ、うなだれる様子にまわりの神々はイヤな予感に囚われる。
「……何だ? まだ何かあるのか」
気は乗らないが、渋々問いかける司会の神。
それに対し、要石を握りしめた神は心を決めたのか、パッと頭を上げ口を開く。
「我ら神々もその使徒も、設置のために、あの不安定な入り口から入ることはできません!」
「誰も入れぬのならば、何の解決策にもならぬだろうがー?!」
「終わったーーー」
まさかの問題発言に、怒号が飛び交う。
そこへ、新たな神が口を開く。
「いえ! いえいえ! 元々あれは人間用なのです。あのような状態でなくとも、我らは元々あの入り口からは入れませぬ。力ある我ら神々には無理な話。人間ならば。ヒトなれば、何とかあの不安定な今の状態でも、可能かと」
ふむ、とやや明るい表情でうなずく神々。
それに背を押されたのか、別の神が言葉を続ける。
「我の見たところ、パン神の暴走の元となったエネルギーの感情は、恥辱と悲しみ、そして大いなる怒り。全てマイナスの、負のエネルギーなのだ。もし、それを打ち消せる何か。プラスの、正のエネルギーをこの要石にこめることができたなら――もしかすれば、あの地にあふれ出した忘却の河レテさえも、封ずることができるかもしれぬ」
その言葉を聞いたとき、周りはどよめきに包まれた。そして、次々と声が上がり始める。
「よし! 選定だ!!」
「要石を設置可能なヒトを選び出せ!」
「託宣が必要か?! 聖者か? 勇者か?」
「古の英雄の魂を呼び出すか?!」
「卑小なるヒトの身で、もしこのような要石の設置に貢献できたならば、褒美は弾まねばのぅ~」
「おおぅ、神々の約定の対価として、何でも願いを叶えてやろうぞー!」
ワハハハ、ガハハハと、少し前とは打って変わった和やかな雰囲気で、対策会議は過ぎていった。
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