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眠れない夜
「明日に備えて、早く寝ないと……」
呟きながら、俺は宿のベットに潜り込んだ。
明日は本社での最終試験&面接。
絶対に遅刻は出来ないので、万が一に備え、自分で会場近くに宿を取ったのだ。
頭の中で、素早く明日の持ち物チェックと段取りを思い描く。
(よし、こんなものか)
そして、ぼんやりとベット脇に飾られた土星の絵を眺め、ここに至る過程を思い返す。
あっという間の大学生活だった――バイトやサークル活動に明け暮れ、気がつけば大学4年生。周りはとっくの昔に就活準備を終えていた。
(くそっ少しは俺にも声をかけてくれよー?!)
いや、周りを気にせず、調子にのって遊びまくっていた自分が悪いのは、重々承知。
だが、早々にインターンシップを利用し、内定への道を爆走する奴らをみると焦りが止まらない。
同じようにサークル活動にハマっていた、と信じていた友人達も、ちゃっかりしっかり就活をしていたのだ。
(明日、明日で決めないと)
出遅れたばかりにどれだけエントリーシートで、ハネられたことか……。
涙なしには語れない。
自己アピール動画の作成&エントリーシート登録に始まり、AI使用の選抜をくぐり抜け、辿り着いたWeb面接。そこから、何度ものふるい落としに耐え、ようやくここまできた。
こうして最終試験へとコマを進められたからには、ここが踏ん張りどころだ。
何が何でも内定ロードに滑り込みたい。
(あ、ヤバい。緊張してきた)
ダメだ。
早く休んで、明日は万全な状態で迎えないと――しかし、気負えば気負うほど、眠気は遠ざかる。
(あーーーリラックス、リラックスだ。深呼吸して、頭を空っぽにするんだ!)
ダメだダメだ。
何か走馬灯の様に色々頭の中でグルグル廻りだしたぞ?!
全然寝られる気がしない……。
『自分の実力以上を発揮しようとするから、緊張するのです』
あ、何だかイヤな格言っぽい言葉が思い出されてきた……。
俺、大学で何やってたんだろう。
心の中で、不安と焦燥が広がっていく――
いやいや、今更ナーバスになっても仕方がない。
明日の就活を乗りこえ、望む会社の内定さえもぎ取れれば、満喫した大学生活はきっと人生のプラスに転ずる、かもしれない。
そう、楽しかった時間を胸に、新たな門出をしてみせる。
そうすれば遊んだ者勝ち、いや遊んだ者も勝ち、だな、うん。
流石に、就職目指してコツコツ努力した奴らに失礼だ。
というか、この際何でも良い。
どうか神様仏様!
俺のこの手に内定を!
自分で人生の糧を手にできる、職を与えて下さい!!
あゝ最後は神頼みになってきた……。
せめて目を閉じて落ち着こう。
確か目を閉じて横たわるだけでも、脳の回復は見込めるんだっけ?
色々考えるとダメージ負うから、ここは王道に羊でも数えるか。
羊が一匹、羊が二匹……。
彼が諦めの境地で羊を数え出した頃、キシリとどこかで不吉な音がした――
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