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天気予報は、悪い方に外れてしまった。
翌日の朝。洗濯物を風呂場に干し終わった後で外を見れば、既に灰色の空からぽつぽつと雨が降り始めてしまっていたからである。
「うわあ、降ってきちゃった」
ペットも飼えないようなボロアパートの我が家だ。雨が降ると、時々共有部分で雨漏りがしている時があるのである。今のところ専有部で雨漏りに遭遇したことはなかったが、なんだか柱が軋むような嫌な音がしている。
「ほんと、これじゃ行きから傘ささないといけないじゃないの。嫌だわ」
「うん。でも、予定より早く降ったんだって」
その時。窓に張り付くように外を見ていた娘は、いつもより随分大人びた口調で言ったのだった。
「だから、早く上がるって。ママが、私を迎えに来る頃には」
「え」
それはどういう意味だ、と尋ねるより先に。紗里がくるりとこちらを振り返った。その顔は、いつもの娘のそれになっている。
「ママ、なんか、こげくさい」
「げ」
しまった、と私は慌ててハンガーを放り出しキッチンに飛び込んだのだった。
ああ、洗濯機が終わる音がしたからといって、なんでトースターにパンを突っ込んだまま忘れたのか。案の定、食パンは真っ黒こげになってしまっている。
「あああああああああああああ私達の朝ごはんがあああああ!」
「けずればたべられるよ、ママ」
「そ、そうね、うん、たべられるわよね……」
削るのも時間かかるし、削ってもいつもより美味しくないんだけどね。私は心の中で涙を流しながらそうつぶやいたのだった。
二人で朝ご飯を食べ、いつもよりちょっと早めに家を出る。保育園に行くためには、いつもの電車に乗っていては間に合わない。彼女の手をひっぱって、みしみしぎしぎし鳴るボロアパートの階段を駆け下りたのだった。
「ママ、でんわ、わすれてる。あと、かぎかけてない」
「あああああああああああ……」
物事、焦るとロクなことにならないものだ。
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