UFO

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 Aさんは高校生の時、UFOに拉致されそうになったことがある。  「あれは夜の8時くらいだったと思います。部活の帰り道、夜道を1人で歩いていると━━」  上空から、舞台のスポットライトのような光が急に降り注いできたという。  「はっとして顔を上げると、そこには昭和の漫画みたいなベタな形のUFOが浮かんでいたんです」  そのUFOはクルクルと回転しながら浮遊し、底面からオレンジ色の光を地面に向けて照射していた。  いかなる技術によるものなのか、その光を浴びたAさんは宙に浮き、ゆっくりとUFOに向かって吸い寄せられていった。  「私、パニックになっちゃって・・・きゃーっていいながら、手足をバタバタさせたんです。そしたら━━」  心なしか、吸い上げられる速度が落ちた気がしたという。  「アレ?と思って。試しに平泳ぎの要領で腕を動かしてみたんですよ。そしたら、ちゃんと漕いだ方向に身体が動いたんです」  UFOから照射されている光の中は、何故かプールのような感覚で泳ぐことが出来たらしい。  「吸い上げられた時はもうダメだって思ったんでけど、これならワンチャン逃げられるなって思ったんです。だから私、必死になってクロールで光の中を泳ぎました。そうしたら━━」  UFOの中に吸い込まれる前に、光の外へ脱出することが出来たそうだ。  「光から身体を半分くらい外に出した瞬間、それまであった『重さ』のようなものが、ふって消えたんです。でもその時、3メートルくらい宙に浮いていましたから、そのまま落下して地面に身体をぶつけちゃいましたけどね」  幸い大事に至ることはなく、軽い打撲と擦り傷程度で済んだという。  「身体中がすごく痛かったんですけど、痛みなんか感じている暇はない、早く逃げなきゃって思って・・・地面を必死に這いずって逃げながら上を見ると、そのUFOはまだ宙に浮いたまま、その場でくるくると回転していました」  Aさんを引き上げようとした謎のオレンジ色の光だけでなく、UFO本体もミラーボールのように派手に輝いていたそうだ。  「追いかけてきたらどうしようって思ったんですけど、結局そのUFOはしばらくしてどこかへ飛んで行っちゃいました。ほうき星のような光の尾を引きながら、空の上の上の方へ昇って行ったんです」  AさんがそのUFOに遭遇したのは、それっきりだという。  話し終えた後、Aさんは朗らかな笑みを浮かべ、こう言った。  「どうですか? UFOに連れ去られそうになっても諦めるな!泳げ!そしたら助かる!これって、トリビアになりませんか?」  私は少しだけ考えるふりをした後、ならないんじゃないですかね、と答えた。      
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