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気が付くと土砂降りの雨は止んで、雲の切れ間からは日差しが差し込んできていた。道路に残っている水たまりに日差しが反射してキラキラしている。
学校帰りの小学生達は、雨上がりに残る水たまりを見つけては、長靴でわざと入り込んで、楽しそうにばちゃばちゃと音を立てる。
ああ、いいなあ。私もあんな時期あったなぁ。
女子高生なんて、小学生から見たらおばさんだものね。セーラー服でそんな子供じみたことは出来ないよ。
そんなことを思いながら、ふと思う。
誰も見てないよね。
むふふ。さいわい今日は雨が凄いから長靴はいてきてるし。
何よりも、さっきのチャレンジ失敗の思い出を忘れたいから。チョットだけ、チョットだけだから、おばさんだけど、良いよね。
そう思って周りを探すと、私は歩道の隅の方に広がる水たまりを見つける。
雨上がりの青い空が綺麗に映り込んでいる水たまり。よし、決めた。
もう一度周りを確認すると、私はえい、と小さな掛け声とともに目の前の水たまりに向かってジャンプする。
とっぷん。
ぎゅるーん?
うわわゎ、わあ!?
まるでプールに飛び込んだように、私は水たまりに引き込まれる。
うわわわ、溺れる!
──と思ってつぶっていた目を開いてみると、そこはいつもの大通りの歩道。
さっき飛び込んで引き込まれたと思った水たまりは、ちゃんと足元にある。
あれ?
さっきの引き込まれる感覚は何だったんだろう。
私はきょろきょろと周りを見渡す。
車道を走る車はいつも通りだし。
町の喧騒は何もなかったように騒々しい。
まるで狐につままれた気分で、私は水たまりから出ると、歩道を歩き始める。
さっきは、思い続けてた彼に告白しようとして言い出せなかった弱虫な私。
そんな私を𠮟咤激励しようとして、水たまりに飛び込んだんだけど。
結局、なんか、ふらふら、へんな気分になっただけ。
そうして、ふらふらと道を歩いていると、ラッキーなことに、向こうからあこがれの彼が、学校で告白しようとして出来なかった彼が、やってくるのに気が付いた。
どうしよう、今度こそ勇気を出して告白しちゃおうか。水たまりに飛び込めたんだから、清水の舞台から飛び込むつもりで。
「高木君、好きです。付き合ってください」
「ごめん、僕、君のこと好きではないんです」
彼は申し訳なさそうに、私の告白に返事をする。
涙目になりながら彼から遠ざかろうとした直後に、私はその違和感に気が付く。
あれ?
私の告白を断った彼の、申し訳なさそうに上げた右腕にはめてる腕時計。
秒針が逆向きに回ってる?
いや違う、文字盤が逆なんだ。
あれ、そういえば彼って右ききだから、いつもは左腕にしてる腕時計が、今は右腕にしてる。
そう思って、冷静に周りを見渡すと、すべてが鏡に映る世界のように逆になっている。
車は右側を走ってるし。
服の前合わせも、男性が左前で、女性が右前!
ああ、だから気持ち悪かったんだ。
もしかしたら、私は水たまりに入ったときに、水たまりに映っていた鏡の世界にきてしまったの?
ということは、もしかしたら、もしかして。
彼の私に対する思いも反対だったりするのかしら!
私はそう思うと、さっきの水たまりの場所に全力で走る。
あの水たまりが乾いて無くなる前に、あの水たまりから元の世界にもどるんだ。
そして、こんどこそ、憧れの彼に告白して、鏡の世界にいる彼と反対の結果を聞いてやる!
(了)
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