10人が本棚に入れています
本棚に追加
エピローグ
現在、ヒデちゃんは神奈川の工業系の大学に通っているみたいだけど、ヒデちゃんは覚えているのかな?
うん……、多分だけど、覚えていると思う。
……ああ、懐かしいなぁ〜。
今になって考えると、あの時、私がサクラの木から落ちて、大怪我になりそうだったのを助けてくれたのは、あのサクラ色のウサギだったのかな?
なぜかと言うと、あの時から一日前の夜の不思議な音楽会の時に、私は同じようにウサギを助けたから。
だって、そうしないと、何もかも説明がつかないでしょ?
それと、うたゑばーちゃんが言ってたことは、本当だったのかもしれない。 小さい頃に、実際、私は『精霊』に会ったのかも。
いやいや、いやっ! 現実に会ったのだっ!
あのサクラ色のウサギは、「私たちが生まれるずーと前から、サクラの木に住んでいる」と言っていた。
……そう。きっと、あのサクラ色のウサギは、川辺の大きなサクラの木の『精霊』に間違いない。
あの頃の幼かった私は、純粋だったかはよく分からないけど、『子ども』であったことは確かだ。
偶然だったけど、私はとってもラッキーだったのだろう。
何気ないきっかけで、『精霊』に会えたんだものっ! 私が『精霊』に会えたことは、奇跡じゃないのかな!
だって、ずっとずっとずっと、夢の中の話だと思っていたのに……。
見間違いとか幻覚とかじゃないって、ちゃーんと分かったんだから。
それから、最近になって思ったことなんだけど、あのサクラの木の『精霊』が、昔からずっーと長い間サクラの木に住み続けているということは、今の大人になった私には見えないことになるな。
心が『純粋』ではなくなった、みたい、だから……??
でも、そういうことだったらっ!
たとえ、大人になっても、私の心が『子供』のように『純粋』であったら、あのサクラ色のウサギの姿をしたサクラの木の『精霊』に、きっといつか、再び会えるかもしれないっ!!
私は、そう信じている。
だから、私はこうして愛犬の散歩の時には、必ず川辺のこの大きなサクラの木に寄ろうと思っています。
ここに来たら、また本当に、あの『精霊』に会えると思っているから……。
私は、ふと腕時計を見た。すると、なんと、もう午前九時を過ぎていた。
そうやって昔の回想をしたり、いろいろと考えごとをしたりしているうちに、随分と時間が経ってしまったみたい。
すぐ横のサクラの木を見ると、相変わらずにサクラの花びらは、風に吹かれて華麗に散っていた。
もーそろそろ、帰らないとっ!
私が立つと、プッチーは目を開けて、大きく背伸びをしながら、欠伸をした。
公園と逆方向を見ると、茶色い犬を連れた老夫婦がサイクリングロードを歩いてくるのが分かった。
私はサクラの木に背を向けた。しかし、一旦サクラの木の方をスッと振り向いた。
そして、サクラの花びらを見上げて、背をピッと伸ばした。
「サクラの木の『精霊』さんっ! あの時は私を助けてくれて、どうもありがとうっ!」
もしかすると、あの『精霊』が姿を見せて、何か返事をしてくれるのではないかと期待して、私は少し大きな声でお礼を言ってみた。
しかし、やはり『精霊』は私の前に姿を現さず、何の返事も無かった。
……当然だよね。 私、期待しすぎだのが、ダメだったみたい……。
そう思って、渋々諦めた私は、来た道を戻り始めた。
と、その時っ!!
『キューイ、キューイ……』
あのサクラ色のウサギ、つまりあの『精霊』の鳴き声が、私には聞こえたような気がした。
その後、私は再びサクラの木の方に振り返った。
もちろん、『精霊』の姿は、どこにも見当たらない。
でも、私には今の声が、確かに聞こえたのだっ!
ほぉ〜ら、私の想いは通じたじゃないっ!! 私は何だか嬉しくなって、満面の笑みになった。
そして、私はプッチーと一緒に、再びサイクリングロードを歩き始めたのだった。
〈了〉
最初のコメントを投稿しよう!