帰り道での再会

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帰り道での再会

 私とヒデちゃんは、川辺の大きなサクラの木のところに来た。  ヒデちゃんは平気そうな顔をしていたけど、私は少し走っただけなのに、息が切れて疲れていた。 「ほら。やっぱり、サクラの花びらと同じ色のウサギなんて、居ないやんっ。百パーセント、ツルの勘違(かんちが)いだろ?」  私はハアハアと息をしながら、下を向いていたから、ヒデちゃんの顔は見られなかった。  しかし、彼の言葉で、私は余計に悔しくなった。 「ウサギさぁ〜ん。サクラ色の、ウサギさーん……?」  私は呼吸をするのが辛かったけど、できる限りの大きな声で叫んだ。 「ここに居るんでしょ? ねえ、ウサギさーんー?」  私は心の中で、九十九パーセント、またサクラ色のウサギに会えることを諦めていた。  でも、一パーセントは、またあのウサギに会える、という奇跡を信じていた。  どうか、どうか……。どうか、今日再び、ここであのウサギと会えますように……。  そう、私はひたすら心の中で祈り続けるしかなかった。  その時、私の後ろで、()()()動いたような気がした。私はもしやと思って、後ろを振り返ってみた。  そして、ゆっくりと下を見ると、なんとそこには、あのサクラ色のウサギが居たのだ! 「あっ!」  私は思わず声を出して、そのウサギを手で捕まえようとした。  ヒデちゃんも私の声を聞いて、振り向いて下を見た。  しかし、そのウサギは私の声に驚いて、逃げてしまった。 そして、サクラの木に登った。 「ヒデちゃんっ。あそこを見て!」  と、私はサクラの木の大きな枝を指した。  サクラ色のウサギは、その枝の上から私たちをじっと見つめていた。 「ねっ! 私の言ってたことは、本当だったでしょ?」  私は、自慢気(じまんげ)にヒデちゃんの方を見た。  ヒデちゃんはコクリと(うまず)いて、呆然(ぼうぜん)とウサギの方を見ていた。  そして今、やっとサクラ色のウサギの容貌(ようぼう)が、ちゃんと分かった。  普通のウサギよりは小さくて、全長は約二十センチメートル。普通のウサギより足も短かった。  葉のような深緑色(ふかみどりいろ)()。サクラの花びらのような周りの毛より長い、五つに分かれた首の毛。  それに、全長と同じくらいの長さの、サクラの花のおしべのような先が丸い耳だった。 「よーしっ。俺が捕まえてやるっ!!」  ヒデちゃんはサクラの木に近付いて、ウサギを捕まえようとした。  その瞬間、私はハッとして、そのウサギを見た。 「ダメッ、ヒデちゃん! やめてっ!!」  ヒデちゃんはビクッとして、伸ばそうとした手を引っ込めた。 「いきなり、何だよ!! さっき、お前だって捕まえようとしてたくせにっ!」 「ウサギさんをよーく見てよっ! (ふる)えているじゃないっ!」  ヒデちゃんはウサギをサッと見て、数歩後ろに下がった。  ウサギは、小刻みにブルブルと激しく震えていた。明らかに私たちを怖がって、警戒(けいかい)していたようだった。  私はウサギに向かって、優しく声をかけた。 「ウサギさん。アナタを怖がらせて、ゴメンナサイね。悪気は無かったの」  私がそう言っても、サクラ色のウサギは(ふる)えっぱなしだった。 「本当にゴメンナサイ……。だから、安心して。もう絶対にしないからっ」  すると、しばらくしてウサギは、恐る恐るサクラの木から下りてきた。そして、ウサギは私たちの足元に来たのだ。  私とヒデちゃんは驚いた。  私はその場に座って、ウサギの背を()でてみた。  ウサギは震えることなく、芝生(しばふ)の上でじっとしていた。  ウサギの毛は、小学校で飼っているウサギと同じように、フワフワしていた。 「俺も()でて大丈夫かな?」 「たぶん……。でも、優しくね」  ヒデちゃんもウサギを撫でている時、私はいつも身に付けている懐中時計を見た。もう三時五十五分になっていた。  私はウサギを撫でるのを止め、立ち上がった。 「もうそろそろ帰ろう、ヒデちゃん。それじゃあ、ウサギさん……、バイバイ」   そうしてウサギに別れの挨拶(あいさつ)をして、私たちはそれぞれの家に帰っていった。
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