第4話 私を変えてくれた人

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 先輩と出会ったばかりなのに、私のほしくてたまらなかった言葉をくれる。外見だけじゃなくて、気遣いもできる思いやりにある素敵な方だわ。 「先輩、ありがとうございます。実力テストや実技でも地味だから反応も薄くて……ちょっと自信がなくなっていたんです」 「いいのよ。貴女の素晴らしさは、これからきっと理解されていくわ。それこそ目に見えた派手さだけが強いわけじゃないもの。もっと自信を持ちなさい! そして笑顔。それが一番の武器よ」 「笑顔……」  口元を綻ばせるが、上手く笑えているだろうか。ヴィンセント先輩は私の両頬に触れて口角を無理矢理上げる。擽ったいけれど、両手が温かい。  気づけば口元が緩んでいた。まるで魔法だわ。ヴィンセント先輩に言われたら、何もかもが現実になりそう。ううん、なるって思える。 「うん、可愛いわ。ぎゅううってしたくなる! 守りたい、その笑顔ってね」 「……! あ、ありがとうございます」 「ああ、もう可愛すぎるじゃない!」 「はう!」  ギュッと抱きしめられて、心臓がバクバクする。危険区域だけれど、魔糸を巡らせているので、貴重なヴィンセント先輩とのハグを邪魔されることはない。 「私とのハグに慣れておきなさい。名ばかりの婚約者をギャフンと言わせるためにも、私で練習しておいたほうがいいでしょう?」 「そうですけど……(わああ、細身なのに腕の中にスッポリ収まって……役得すぎる!)」 「もちろん、練習台は私だけにしておきなさいね」 「はぃ(ヴィンセント先輩以外にハグとか、もう無理です……)」 「いい子ね♪(もうしばらく抱きしめていたいから、周囲に結界を張っておきましょう。ふふっ、思っていた以上に魔糸の範囲が広いなんて優秀だわ)」  これでまた一つ魅力的な女性に近づけたかしら?  王都に来てから、真新しいことや慣れない環境で、自分らしさがどんどん失われて、空回りしていた気がする。レックスからの言葉の暴力、嫌がらせ、どんどん酷くなる噂。友達のできない学院生活に凹んでいたのが、何だか小さなことのよう。  ***  ヴィンセント先輩と出会ってから私の学院生活は一変した。  特待生のパートナーになったことで通常授業が免除になり、毎日ヴィンセント先輩と第十三区域の森で素材集めをする日々が続いた。  通常特待生のパートナーに入るのは二年生が殆どらしいが、私は成績優秀だったこともあり、講師の支持とヴィンセント先輩の口添え(狩りでの素材を見せたら納得した模様)で許可が下りたと後から教えて貰った。
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