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想像していた学院生活とは全く違ったけれど、ヴィンセント先輩と一緒に素材集めをする毎日はとても楽しい。
辺境地では単独行動が基本だったので、誰かと一緒に狩りをするのは新鮮だわ。それに勉強にもなる!
「一人でどうやって身を守るのかと思ったら、索敵に魔糸を使うなんて考えもしなかったわ。よく魔力切れにならないわね。私もびっくりよ」
「森に漂う魔素で、魔糸魔法を維持しているのです。じゃないとさすがに私の魔力では長時間は持ちませんから」
「周囲に漂っている魔素を自身の魔力にするなんて、繊細な魔力コントロールが必要なのに。普通は考えてもできるものじゃないわ。もう少しすごいことだって自覚しなさい」
「はぃ」
ヴィンセント先輩は私の魔法を説明する度に目を丸くしながらも、褒めちぎってくれる。それがなんだがこそばゆい。褒め殺しされそう。
故郷ではできて一人前と言われていたし、王都に来てからは地味だとしか言われなかった分、先輩の言葉は私の心を柔らかくして、ちょっとずつ自分に自信が持てるようになってきた。
「……ちなみに索敵範囲って、最大でどのぐらい広げられるの?」
「……その、半径二百メートルが限界です」
「ほら! 不安そうに言わない! すごいことなんだから、もっと堂々としなさい! そして笑顔!」
「は、はい!」
ネガティブな言葉が出る度にヴィンセント先輩は私を窘める。「貴女は、すごいんだからね!」と少し大袈裟な反応を見せるが、本心から言っているのが分かって胸がポカポカする。
ヴィンセント先輩は褒め上手で、私を有頂天にさせる天才だと思う。
「シンシアは可愛いわ。だいたい貴女が笑っただけで、何度もハートを射貫かれているんだからもっと自信を持ちなさい!(まだ婚約破棄してないから、ハグ以上のアプローチを我慢しているのに!)」
「(時々独特な発言するけれど……、こんな気遣いができて、明るくて格好いいのだから、モテるのも頷けるわ)は、はい!」
「それじゃあ、今日は危険区域にある特別な図書館に行きましょう! いい所よ!」
「……え? 図書館?」
猛獣だらけの危険区域に、図書館があるというのだから耳を疑った。ヴィンセント先輩は、石の祠を目印に森の奥へと進んでいく。
「図書館だけじゃなくてレストランやお店もあるわ。ふふっ、デートみたいだと思ってくれても良いのだからね!」
「(デート!? そんな恐れ多い)……え、えっと、レストランに、お店って運営するのも大変ですよね? それに人が来るんですか?」
「もちろん。実力がある一部の人間あるいは人外しか来られない特別な場所よ。隠れ家みたいなもので、それなりの強さがなければ来店を許されると言うべきかしら」
「へぇ」
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