第4話 私を変えてくれた人

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「(日に日に可愛くて自重するのも限界が近そうだわ)……次の期末試験当日にはレックスから婚約破棄するように仕掛けておくわね」 「え!? そんなことができるのですか!?」 「もちろん。生徒会を巻き込んだから、速攻で対応してくれるはずよ」 「生徒会……?」  そういえば入学式の生徒代表で、生徒会会長が話していたわ。でも私の婚約破棄と生徒会に、なんの関係があるのかしら?  小首を傾げているたら、ヴィンセント先輩が答えを教えてくれた。 「シンシアの悪い噂を意図的に流している連中に、ちょーっと痛い目を見て貰うだけよ」 「(あ、先輩……目が笑っていない)……痛い目って?」 「ふふん♪ たいしたことはしてないわ。ただ噂が大きくなっているでしょう? これ以上広まったら本当に辺境伯が総力をあげて武力行使したら不味いって思って、生徒会長に相談してみたのよ。彼は馬鹿じゃないから、その意図は分かっていたみたいだし、元々噂に関しては威風紀の乱れにもなるから、噂の発生源について調査が入るし、吹聴していた生徒は厳重注意または内申を下げるようよ」 「ありがとうございます。……私も両親に頼るのは悪手だと思って無視を貫いていたのですが、それが良くなかったのかもしれません」 「いいのよ。悪いのは調子に乗った生徒たちなのだから。それと魔法省の候補にシンシアの婚約者の名前を入れておいたわ。これで彼は魔法省の就活で忙しくなるだろうし、面談までには是が非でも婚約破棄していないと評価に繋がるわ」 「あ、そっか。元々私たちの婚約は辺境伯に婿入りするのが前提だけれど、魔法省に勤めるなら王都での勤務が最低でも五年は必須。魔法省に勤めるなら婚約破棄していない、あるいはそのことについて当然質問されるはずだわ」 「そういうこと。しかも今のシンシアは特待生の相棒(パートナー)として通常授業は免除になっているから、レックスと会う機会はない。焦る彼なら期末試験当日にシンシアのクラスに出向いてでも婚約破棄の書類を持ってくるわ」 「ヴィンセント先輩、すごい。私では考えつかなかったです」 「沈黙だけが戦いじゃないわ。舐められないように反撃するのも大事よ」 「はい」  もしかして私に黒い噂を流したのも、婚約破棄を私からするように促したのも、全部魔法省で面談を受ける際に婚約破棄の原因がレックスでないと証明したかったから?  そんなことせずに誠心誠意、自分の夢のためだと話して頭を下げてくれたなら無理強いをせずに婚約破棄したのに……。ううん、そもそもライラさんと浮気していたからどっちにしても許せなかったわ。 「(すごく私のことを持ち上げてくれているけれど、私個人としてはシンシアを早く口説きたいから……下心でいっぱいなのだけど、気付いてない? セーフ? がっついてない? 私のほうの婚約は破棄しているし、あとはシンシアだけ)……何も事も迅速に。切り札の使い処も参考になったかしら?」 「はい!(私の状況のことも考えくださって……どうしよう、すごく嬉しい。これは惚れてしまう……。うう、でも駄目よ。アプローチは婚約破棄が終わってから!)」  ヴィンセント先輩のことを知るたびに、驚くばかりだ。細やかな気遣いをするけれど、戦闘は大雑把というか豪快かつ力業で押し切る傾向があるところか、自分にないものを持っている先輩が眩しくて、惹かれる気持ちを抜きしても憧れる。  レックスの件が終わったら、ヴィンセント先輩の隣に居られるような素敵な女性になりたい。  どんどん新しい目標が湧き上がる。思えば自分は好奇心旺盛で、前向きな性格だった。どうして忘れていたのかしら。
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