第1話 最悪の学院生活

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 ***  放課後の裏庭で、レックス(婚約者)と落ち合うというシチュエーションはドギドキする! 少女漫画のワンシーンのようだわ。  数年ぶりに会うレックスは垢抜けて素敵な青年になっていた。髪は肩まで伸びていて、学生服のロングコートなど着崩している姿もカッコいい。魔導具だと思われる指輪にピアス、胸飾りなどのアクセサリーもお洒落だ。 「レックス、久しぶりね!」 「ああ……」  開口一番「入学おめでとう」や「首席とかすごいな」などの言葉一つ出てこなかった。ただただこの場にいることが迷惑で苦痛だと言わんばかりな顔をしていて、目を合わせようとしない。 「シンシア、悪いが君との婚約はなかったことにしてほしい」 「…………え?」  木漏れ日から漏れた日差しがレックスだけを照らし、建物の影にいる私は世界が黒く塗り潰されたような感覚に陥る。 「この学院に入って、自分がどれだけ狭い視野で物事を見ていたのかが分かったんだ。それと同時に、俺はもっと上を目指せるって実感した。だから、シンシア。俺の未来のために、君との婚約のことはなかったことにしてほしい!」 「え、なっ……そんな急に」 「君だってこの婚約は両親が決めただけだって、思っているだろう。今時親同士が決めた婚約なんて古臭いし、俺はオールドリッチ家に婿に入る気はない。もっと上を目指して、卒業したら魔法省(王都)で働いて暮らしたいんだ。辺境地(あんな辺鄙な場所)になんて戻りたくない! 頼む! 君から婚約破棄したって、両親に話してくれないか?」 「レックス……私はっ」 「ああ、特別課外授業を受ける時間だ。後は頼んだからな! いいか俺からじゃなくて君から婚約破棄したいと言うんだぞ!」  レックスは私との話を切り上げて、と言うか一方的な言葉だけ投げかけて走って去ってしまった。呼び止める暇もなくて、みっともなく「嫌だ」と泣くこともできずに、伸ばしかけた指先を下ろす。  レックス。昔はもっと優しかったのに……。一方的な言い方をするなんて、別人みたいだわ。  田舎から都会に出た途端、垢抜けてはっちゃける《都会デビューあるある》はよく耳にしていた。前世でも田舎から東京に出て数ヵ月で、ガラリと変わったと言う話を聞いたことがあるし、都心部だとなにかと触発されやすいのかもしれない。  昔は『僕』だったし、口調も変わった。一方的で話し合いにもならなかった。私、レックスと同じものが見たくて、頑張って入学したのだけどな……。  せめて「おめでとう」の一言でもあれば、報われたのに。入学当日に目標を失った私は、楽しみにしていた学院生活が早くも色褪せていくように感じられた。  ***  魔法学院では可愛い子やお洒落な子が多くて、三つ編みのおさげ、分厚いメガネに、支給された制服をそのまま着ている真面目は私ぐらいだった。最高級品の黒の外套を羽織り、個性的な服や装飾を着こなしている生徒が多い。  そっか。服装も防御魔法や付与魔法を着けるから、服装の規定が学院内でも緩いのね……。知らなかったわ。
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