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地味なくせに成績優秀だというのは、ひがみや嫉みの対象になりやすい。その上、黒い噂が蔓延すれば居心地は最悪だった。
あからさまな嫌がらせが始まる前で、本当によかった。だってたぶん、反撃されたら敵認定して殲滅モードに頭が切り替わるだろうし……。私自身、戦闘モードになったら冷徹に潰すわ。そこまで追い詰められなくて良かった。
「……ヴィンセント先輩のお陰で、私は冷徹モードにならなくてよかったです」
「そう? ならシンシアに声をかけて良かった。前よりも笑顔が増えて、ますます可愛くなっているのよ。気づいている? 天使? ううん女神になるんじゃ?」
「ヴィンセント先輩こそ、かっこいいし、口調も親しみやすいし、コーディネートセンスだけじゃなくて、気遣いもできて、強くて物知りで素敵です」
「──っ」
ヴィンセント先輩は鳩が豆鉄砲を食らったような顔で、心底驚いていた。
「ねえ、シンシア。貴女がよければ──」
「ヴィンセントじゃないか!」
「「!?」」
唐突に声をかけてきたのは、魔法学院のローブを羽織った青年だ。ブロンドの長い髪に、翡翠の瞳、繊麗な青年は、笑いながらヴィンセント先輩に歩み寄る。対してヴィンセント先輩は「うげぇ」と声を漏らしつつも、追い返す気はないようだ。
先輩の知り合いっぽい?
「ローレンス。王族が供回りを連れずに、こんな所にいていいのかしら?」
「王族だってたまには、一人で行動したくなる時があるんだよ。……ん? 君は噂の美少女ちゃんじゃないか」
「え……美少女? 私が? って、王族!?」
「うん。この国の王太子だよ。よろしくね」
「未来の太陽となられる王太子殿下に──」
「そういうのはここでは良いから、シンシアは私の後ろに隠れてなさい」
「ひゃう?」
グッと近づくローレンスという青年に対して、ヴィンセント先輩が前に出て、私を背中に隠す。騎士が姫を守るような感じで思わず感動してしまった。
青年はそのやり取りを見て、興味深そうに笑みを深めた。
「へえ。初々しい感じが可愛いね」
「ローレンス。手袋を今すぐにでも投げつけても良いかしら?」
「決闘なんて……、そう怒らないでくれ。今、魔法学院内ではヴィンセントのパートナーになった謎の美少女の話題で盛り上がっているんだ。学院に戻る時は気をつけろって助言しに来ただけだよ」
「……………ああ」
「(何故手袋? 決闘? それよりも謎の美少女って私のことなんだ……。こんなに早く周囲の目を惹くなんてヴィンセント先輩の策は本当にすごい!)ヴィンセント先輩のおかげで自信を取り戻しましたし、変わろうって思えたのです! ヴィンセント先輩はやっぱりすごいです!」
ひょっこりと顔を出してみたらヴィンセント先輩が「ヒュッ」と声を出した。ローレンス先輩はお腹を抱えて笑っている。
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