第6話 復讐劇には準備が必要です

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「……もしかして長い前髪の姿の時は、みなさんヴィンセント先輩だって認識してないんですか!?」 「あら言ってなかったかしら」 「言っていません……」 「同名なだけで別人だって思われているそうよ。ライラに会った時に勝手に広めたから、そのまま訂正してないわけ。まあ、フルネームを名乗っていないし、平民だと思ったようね。別に問われていないし、そのままにしているわ。そのお陰で素早く婚約解消できたし(シンシアと恋仲になりたいから、なんて言えないけれど……バレてはなさそうね。目をキラキラさせて可愛いわ。ああ、早く口説きたい……)」 「ヴィンセント先輩はすごい力や実力を持っているのに、それを隠して静かな学院生活を選んだのですね」  それはすごい決断だったと思う。本来なら飛び抜けた実力を持っていて、尊敬されて憧れる存在なのに、それらの生活ではなくて静寂を選んだのだから。  私ならその孤独に耐えられなかった。噂がなかったとしても、やっぱり独りぼっちというのは辛いから。  ヴィンセント先輩はクスリと笑った。 「認識阻害魔導具も使っていたから、気付かれなかったんだと思うわ。私は集中して貴重な素材を使った服作りに没頭したかったの。取り巻きに囲まれるより、一人のほうが気楽だったし。でもそれが正解だって思ってないわ。シンシアが同じことをなぞる必要はまったくないから! まったくよ!」 「あ。……私、ヴィンセント先輩との時間が楽しくて、期末テストが迫るまで今後の学院生活について先延ばしにしていて……。先輩のいう復讐って、どんなことを考えているのですか?」 「せっかくだから、大舞台で二人に恥をかかせるの。ほら以前魔法省に働きかけて推薦枠を……って話したでしょう」 「はい」 「それで……ふふっ、耳を貸して」  艶っぽく笑ったヴィンセント先輩に手招きするので近寄って、耳を傾けた。  睦言のような甘い囁きに、更に心臓が激しくなりかけたが──ヴィンセント先輩の提案に思わず耳を疑った。 「……え」 「決行するかどうかは、シンシアに任せるわ」 「でも、先輩はそれでいいのですか?」 「私はもうすぐ卒業だし、それに──」 「それに?」  蠱惑的な笑みを浮かべた。私の答え次第と言いたいのだろうか。  だとしたら答えは、もう出ている。 「先輩、私は──」 「お待たせしました三番目のカードをお持ちのお客様。お席にご案内します……にゃん」 「か、か、かわいい!」 「にゃーん」 「(シンシアが可愛い)……本当に可愛いわね」 「ですよね?」 「(シンシアをこのまま)食べちゃいたいぐらい」 「なーう!?」 「た、食べたらダメです」  私と猫さんは思わず抱き合い、ヴィンセント先輩の発言に慄いた。
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