第1話 最悪の学院生活

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 辺境地だと軍服が支給されていたし、好き勝手服装を弄ったら刑罰ものだったものね……。それに前世では病院生活が長ったから、今世ではオシャレは侍女に任せっきりだった。  こんなことなら次女を連れてくれば……ううん、私一人が抜けて戦力的にも大変になったのに、これ以上人員を減らせないわ。せめて美的センスのある人にアドバイスがもらえれば……。  周りの生徒を見渡すと、付与魔法が織り込まれた生地などもあり、素材は高級なものが多い。どれも仕立屋に頼んだ一点ものっぽいわ。  私もお洒落を……。うーん、でも付与魔法やアクセサリーを使わなくても、たいていのことは魔法でできてしまう。  私の魔法は繊細かつ珍しいが、地味な魔糸魔法なので、実技でも目立つことはない。  それに「三つ編み(髪型)は絶対に変えるな」とか「眼鏡も外すな」って父様や兄様からキツく言われているし……。……でも……。  入学から一ヵ月で、私はぼっちになっていた。友達はみんなお洒落で、グループも初日で固まってしまったこと。  そして女子生徒から遠巻きにされている最大の理由は「シンシアは恋人がいる異性にしか興味ない」とか「地味な魔法で首席を取れたのは、家の根回しがあるから」という根も葉もない噂のせいでもある。  誰がそんな噂を……?  うう……王都、怖いわ。  それからの学院生活は、さらに居心地が悪くなった。何をしても私が悪い、家の力という噂が広がっている。  実際に辺境伯って地位よりも、武力においては力があるのは事実……。「噂は違う」と言いたいけど、私に直接確認しにこないでヒソヒソ言うばかりなのに、一人ずつ説明して回る?  そんなことをしても気付けば別の噂が広がっていて、抜本的な解決にはならなかったわ。噂には噂ってあるけど、王都に味方がいない私だけでは八方ふさがり……。実家に頼ったらそれこそ、噂を事実にしてしまう。  どうすればいいのだろう。  ***  とある放課後。図書館に向かう途中で、偶然レックスが階段を降りて来るのが見え、思わず空き教室に逃げ込んでしまった。  私、何をやってもいるのかしら。 『婚約者がなかなか別れてくれないんだ。しかも家の援助を打ち切るって脅してきたんだぜ。俺を一方的に悪者にしたいらしいんだ』 「(そんなこと一言も言ってない! それに婚約していることで融資しているなら、当然援助が切れるのだって普通でしょう!)……っ」 『うわー。最低だな。家を盾に脅すなんてさ』 『そうそう、武力でなんでもかんでも力業で押し切るのって感じが悪いよな』 『だろ!』  出鱈目な噂を吹聴しているのはレックスだったってこと?  どうあっても私から婚約破棄させたいから、周りに噂をばら撒いて領地に逃げ帰るように仕向けているのね。私自身、婚約破棄は仕方がないとしても、私を有責にして別れようとするため、悪い噂を広めるなんて思いもよらなかったわ。  ここまで性根が腐っているとは、思いたくなかったのに……。もう昔の優しいレックスはいないのね。  友人との付き合いで放蕩貴族の考え方に感化されたのだとしたら、王都は恐ろしいところだわ。周囲の人や環境で、人ってここまで変わるものなのかしら? 朱に交われば的な?
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