第12話 一度だけの弁明

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 今度こそライラから余裕の表情は消え失せ、顔色は青白くなって俯いた。怯え、体を微かに震わせている。 「わ、私はリファス伯に脅されて、しょうがなく……ローレンス、ヴィンセント。信じて。私は利用されただけなの!」  悲劇のヒロインめいた発言よりも、その演技力に脱帽した。罪を認めたようなものだが、一貫して自分は悪くないと主張している。  あまりにも身勝手な発言だが、それでも涙と女優顔負けの演技力に圧倒されてしまう。  ふとそこでヴィンセント先輩が先ほどから黙っていることに気付いたが、どうしても彼の顔を見ることができなかった。もしライラにほんの少しでも情を残していたら、あるいは哀れだと同情していたら──。  口ではああ言ったけれど、ヴィンセント先輩とライラは婚約者同士だった……。  怖くて両手をギュッと握っていると、左手の甲に温もりを感じた。恐る恐る手の甲から顔を上げるとヴィンセント先輩の気遣う眼差しが映る。 「心配しなくても、僕がこんな女の戯れ言に騙される訳がないだろう」 「ヴィンセント先輩……! 好きです」 「うん、僕も大好きだよ」  ん? あれ?   今サラッと告白して、返事をもらったような? 「はいはい。良い雰囲気なのは後にしてくれ。……さて、ライラ。この場を作ったのは、次にシンシア・オールドリッチと会った時に心から謝罪をして貰う。それが、いつ、どんな場所だったとしても、君は自分の罪を認めて頭を下げるんだ」 「なっ、私があの地味で不細工に!?」  本人が目の前に居るのだけれど……。気付いていない? あ、そもそも会ったことすらなかったわ。  ヴィンセント先輩が殺意を隠そうともせず、冷ややか視線をライラにぶつけていた。正直、今すぐにでも手にかけそうな殺意に、私まで震えそうだ。 「もし約束が果たされなければ、死罪もあり得る」 「そ、そんな。私は被害者なのに……」 「二次試験は受けさせて上げよう。精々、自分には価値があることを証明しておくと良い。──黒騎士」 「はっ」  音もなくローレンス先輩の影からソレらは姿を現した。影が移動の(ゲート)になっているのか、三人の黒騎士は突如部屋に現れると、素早くライラを拘束する。 「なに、やっ、触らないで!」 「試合までこの者たちが護衛及び監視役をする。お前たち、彼女が逃げ出した場合は殺しても構わない」 「御意」 「嫌っ! 離して! 私が悪いんじゃない。あの女が悪いのよ! レックスだってそう言っていたもの。リファス伯だって!」  影がインクのように揺らめき、ライラたちは姿を消した。一気に部屋に静寂が戻る。  復讐劇がどんどん壮大な感じになってきているような? 王家を巻き込みかねない事態って何!?  怒濤の展開にやっと落ち着いたと思った矢先、ローレンス先輩は「すまなかった」と、深々と私に頭を下げた。
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