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私を狙い続ける執拗な戦い方に、観客の声が徐々に変わっていく。
「おいおい、いくらなんでも執拗過ぎないか?」「ヴィンセント先輩と正面切って戦え!」「卑怯者!」とレックスに罵声が向けられた。最初は少なかったが、レックスはヴィンセント先輩との直接対決は望まずに一撃離脱を繰り返す。
弱点を叩くのは上策だけれど、あまりにも一方的に私を狙うので、不満な声が上がる。「男らしくない」とか「剣士なら戦え」などなど。
時折ヴィンセント先輩がわざと隙を見せて、レックスを煽るのだ。そしてその隙とは、私を狙うにはもってこいのタイミングだったりする。
誘導されて私に攻撃をして阻まれる。自分の攻撃も通らない苛立ち、観客のブーイング。戦いの中で齎される情報や戦況を冷静に把握するだけの余裕は削れたはず。
その結果、レックスたちの攻撃がどんどん単調になって、視野も大分狭まってきたようだ。
優雅に舞うヴィンセント先輩の剣技に「キャー」と、黄色い声が上がった。次いで猛攻撃を仕掛けるレックスにヴィンセント先輩は軽くあしらい余裕を見せつける。
ヴィンセント先輩、やっぱり格好いい! 好き!
「――っ、速度加速!」
「……拒絶」
ライラは防御魔法に特化しているが、かけ直す度に私がそれを砕く。青白い光が途中で霧散し、レックスに魔法付与されることはない。魔法が発動する瞬間を狙って、補助魔法、付与魔法が展開された直後、魔糸魔法で魔法陣に亀裂を入れて拒絶する。
地味だけどこういう攻撃は精神的にくるでしょう?
不意にライラと視線がぶつかる。ヴィンセント先輩に習って、口元を緩めた。これで少しは煽れたかな?
「!?」
ようやく私のしていることに気付いたライラは、顔を真っ赤にして睨んできた。三十八回目でやっと気付いたけれど、それならどう対処する?
「──っ!」
ライラは漆黒の杖を取り出した。杖の先端に柘榴色のクリスタルが添えられており、そのクリスタルが怪しく光る。
「私はこんなところで終わるなんてあり得ない! 私は悪くない。私のせいじゃない、私は、自由に生きるのよ!!」
あれはリファス伯から譲り受けた《呪術の杖》。一度発動すれば、術者もろとも周囲を瘴気に変える魔法封印指定の魔導具! やっぱり出してきたわ!
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