第2話 押しつけられた悪役令嬢

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 失恋と新しい環境に馴染めないことで凹みまくったが、辺境地から送り出してくれた両親と、旅をしている兄のことを思い出す。  過保護な両親や兄を説得してやっと魔法学院に入学したのに、今回のことを伝えたら「戻ってきなさい」と言い出すに決まっている。そして凄惨な罰をレックスに課すだろう。でもそれは家の力を借りたことになる。噂通り、家の力を使った人間と烙印を押されるのと同義だ。  せっかく憧れの場所に来たのに逃げたくはないし、そもそも悪者にされたままじゃ気分も悪い。  でもでもだっては、ここまで!  覚悟を決めて、グッと顔を上げた。 「ここで逃げたら、ずっと後悔するもの……。こうなったら卒業までにすっごくいい女になって、振ったことを後悔させてやる! そして私の悪い噂も全部嘘だって証明してみせるわ! 見てなさい!!」 「君は逃げないんだ……」 「ええ! 私という存在を全否定されたんだもの! 見返してやるわ!」 「そう……。ところで、その布……僕の素材だったんだけれど……」 「え」  ここでようやく声をかけられていたことに気づき、慌てて振り返る。  誰もいないと思っていた部屋の端に、前髪の長い男の子が佇んでいた。教室に溶け込むほどの存在感の無さに、幽霊かと一瞬思ったけれど足はついている。影もあった。 「お化けじゃないよ」 「心を読まれた!?」 「いや、顔に出ていたよ……。一応、その素材滅多に手に入らないシルクの布なんだけど……」 「ん? ……ああ! 思わず涙を拭いたんだった! これ貴方のだって知らなくて。……ご、ごめんなさい……! べ、弁償を」 「白銀蚕から作られた特別製だから、高いけど……君に払える?」 「(白銀蚕って、確か第一級庇護対象の魔物だっけ……。辺境地だと良く見かけるけど、王都だと入手が難しいのかな?)ええっと……」  お金はあまりないけれど、素材なら結構手持ちがある。そう思って、腕時計に付与されている亜空間ポケットから一メートルほどのシルクの布を取り出す。 「弁償は冗談だ――」 「このぐらいの長さのでもいい?」 「え、……なんでシルクの布を君が!? あれは第一級庇護魔物かつ、珍しいものなんだよ! どこで手に入れたんだい!?」 「え、ちょ」  彼は目をキラキラさせながら、私の両肩を前後に揺らす。思わぬ食いつきに困惑しつつ「実家だと珍しくない」と伝えたら、興奮しつつも納得してくれた。 「そうか。君が歴代最高得点で入学したシンシア・オールドリッチだね」 「え、そうだけれど……? 貴方は?」 「僕はヴィンセント。三年生……だ」  近くで見ると薄紫の長い髪は腰まであり、前髪も同じくらい長い。先ほど興奮した時に見た瞳は、アメジスト色でとても美しかった。細身だけれど背丈は高く、両肩を掴んでいる手はとても大きくて力強い。この人、たぶん強い。  学生服姿は支給品をそのまま使っているのか、アレンジらしいアレンジはない。ただ彼の爪はマニキュアをしていて、ピンクや水色と可愛らしい色合いなのが目立った。 「もしかして、先輩は可愛い色やものが好きだったりします?」 「え。……まあ、そうだけれど。やっぱり男が可愛いものや服を作るのって変……だよね?」  自嘲気味に告げる先輩に、私は彼の両手をガシッと掴んだ。
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