3章 追悼の会

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龍彦は舌打ちをしてから、シャンパンのコルクに指を添えて天井に向けてコルクを抜いた。 それぞれ4つのグラスにシャンパンを注ぐと、沙絵に一言お願いした。 「うーん…智則さん、久しぶりにみんなと食事ができて、それと、みんなに会えて嬉しいです☆今日は智則さんも来ていると思うので楽しいひと時にしたいです。かんぱーい♪」 全員で乾杯すると、好きな料理を取って食べ始める。 どの料理をとっても、沙絵には懐かしさが溢れてくるものばかり。 「このテリーヌ、本当に美味しいよね~。よく最後の一個をどっちが食べるかで喧嘩したこともあったね~」 遺影の智則に話しかける沙絵を見て、龍彦も栄策もにこやかにしていた。 「テリーヌ一個で喧嘩するって…笑」 龍彦は首を傾げながら、吹き出しそうになる。 「仲のいいご夫婦だったのね〜。ワタシが入ってからも、2人は凄い仲が良さそうだったものね」 「そうなのか?」 龍彦が栄策に尋ねると、栄策は自分が介護に入ってからの、水沼夫妻のエピソードを感涙むせびながら話し始めた。 「車いすは最初ワタシが押してたんだけど、沙絵ちゃんが会長と2人きりでデートしたいから、押し方教えてほしいって言ってきてね〜。だけど、私は介護の経験もない、一度も車いすを押したことがない人だと大変よ?って説得したのよ。…でも、それを聞かなくってね…。いつ死んじゃうか分からない智則さんと思い出を一つでも作りたい、智則さんの願いをできるだけ叶えたいって懇願してきてね。それで、仕事が終わってから、夜中にこっそり車いすの押し方を教えにいったりしたことがあったわね」 「へぇ~。俺がいる時とは全然違うんだな」
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