催氷竜

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 命をさずかった時、心のなかに冷たいものが侵食してきた。  やがて、冷気をともない、孵化する。  私たちは、白い、森のなかを歩いていた。  私の吐く息は、周囲の木々の葉を凍てつかせる。  雪がふっていた。  雪の道を、私は花白(かしろ)に手をひかれ、歩いていた。 「寒い」花白ははぁーと手のひらに息を吐きあたためた。 (寒いとは、なんだ?)  やがて、白を基調とした建物にたどりついた。  中央に大きな塔があり、頂上にはきれいな音がなる鐘があった。 「ここなら親のいない子供のめんどうをみてくれるって」花白がいった。  幾年かがすぎた。  ある日のおやつの時間に、私は花白(かしろ)に「心のなかに竜がすんでいる」と告発した。花白は孤児院に蔵書してある本をよく読んでいて、物知りだった。 「姉さん……竜がまだ生きているはずがない。  竜はね、何百年も前の英竜戦役の時、人類に絶滅させられたの。  その時人は、竜殺しという危ない武器をつかって、竜を殺したの」 「いるったら、いるんだよ」  花白はあきれたように鼻を鳴らすだけで、求人誌に目をもどした。  そろそろ孤児院をでる歳になるから、必死に職探しをしているみたい。  やがて一段落したのか、雑誌をとじ、立ち上がった。 「姉さんでも働ける場所があればいいね」花白は私の頭をなでた。私たちは同い歳のはずだけど、私は花白の身長の半分ほどしかない。 「またお姉ちゃんを子ども扱いしてー」 「はいはい、そんなにはしゃぐとお菓子が口からでちゃうでしょう」  竜は夢をみる時に、たまに目のまえにあらわれる。  どこかのきれいな雪原の空を、優雅にとんでいるのだ。  この町はずーっと雪がふりつづいている。  あなたたちがここにくるまでは、そんなことなかったんだけどね~とシスターたちは苦笑しながらいっていた。  作物が育たず、交通の利便性も悪く、町の人々は、あきれたようにでていった。  やがて、資金繰りが難しくなり、孤児院はとりこわされた。  捨てられていたローブに身をつつみ、夜の町をさまよう。  廃棄された食材を拾い集め、なんとか飢えをしのぐ。  町はずれの森の中に、獣に荒らされた木造りの小屋をみつけた。  水道はとおっていないようだが、歩いてすこしの場所に川があった。  物置には工具類があったので、花白は、次の日から小屋の補修作業にとりかかった。「姉さんはどうする? 手伝ってもいいけど、危なくないかな」 (トンカチは、重すぎる……)私は森の動物たちとたわむれていた。 「くれるの?」  散歩していると、森にすむ動物たちが、木の実やキノコをわけてくれる。  さらには、肉が欲しいとおもえば、リスやウサギが、高木の上から身投げして、首を折り、己の肉を私によこした。 「姉さん、これ……」私が彼らの躯をわたすと、花白は怪訝な顔をしながらも、刃をとおし、食べられるようにしてくれた。
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