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私たちは十二になった。
とはいえ、私の背丈はいまだ、花白のお腹ほどしかなかった。
花白は毎朝、陽がのぼる前に起き、ホットミルクを飲み、工場に働きにいく。
花白の用意してくれた朝ご飯を食べ終えて小屋をでた。
小屋の外壁には、何枚か張り紙が貼ってあった。「シネ、バケモノ。この町からデテイケ」「雪をふらすな、バケモノ」「オレタチの野菜をカエセ」そんな内容が、広告チラシの裏に書いてあった。この張り紙は、毎晩、だれかがコッソリ貼っていく。私は、花白が用意してくれた、ビールケースを足場にして、張り紙を剝がす作業にとりかかった。
(さてと、今日の特売は……と。ニンジンが安い!)
そうしていると、ヒュンと風を切る音がした。
「イタっ」
頬に小石がぶつかった。
衝撃でバランスを崩し、ビールケースから落ちる。
藪のほうから、子供の笑い声がする。ふたたび石が投げつけられる。私は目に石がぶつからないよう、手でおおった。
藪から子供たちが汚い言葉を吐きながらでてきた。
私の体をふみつけ、去っていった。
痛かったけれど、泣くまいとこらえた。
泣くと、花白を心配させてしまう……。
涙を必死にこらえて、張り紙を剥がす作業をつづける。
集めた張り紙を机のうえにあつめておき、私は服を洗うため、河にむかった。
「姉さん、その傷……」「ころんだ!」「嘘」しかし、帰宅した花白に抱きしめられた瞬間、涙があふれでてしまった。ワンワンと泣きわめく私の頭を、花白はやさしくなでた。「ごめんね……私が家にいればよかったのに」
高架下にいた頃は、ふたりで石をくらった。
ひどくよごれた私たちは、腐臭がただよい、町の汚点だった。
当時から体躯が大きかった花白は、必死に私の盾になろうとした。
「この町からでる?」
「ダメ! せっかく、花白のお仕事みつかったのに……。
それに……どうせ、どこの町にいっても、白亜がいると雪がふるんでしょう?
おなじだよ」
「……」花白はとてもさみしそうな目で私をみつめ、けれど、なにもいわなかった。
かなしみがおさまったころ、私は集めた張り紙を花白にみせた。
「ヒドイ……」
「でもね、これは私たちへの贈り物でもある」
「ン?」
マッチに火をつけ、張り紙を燃やす。
ちいさな火種をあつめていた薪にうつし、そのうえに水の入った薬缶をおいた。
花白はほほえむと、お湯をつかって、豆のスープを作ってくれた。
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