3人が本棚に入れています
本棚に追加
命をさずかった時、心のなかに冷たいものが侵食してきた。
やがて、冷気をともない、孵化する。
私たちは、白い、森のなかを歩いていた。
私の吐く息は、周囲の木々の葉を凍てつかせる。
雪がふっていた。
雪の道を、私は花白に手をひかれ、歩いていた。
「寒い」花白ははぁーと手のひらに息を吐きあたためた。
(寒いとは、なんだ?)
やがて、白を基調とした建物にたどりついた。
中央に大きな塔があり、頂上にはきれいな音がなる鐘があった。
「ここなら親のいない子供のめんどうをみてくれるって」花白がいった。
幾年かがすぎた。
ある日のおやつの時間に、私は花白に「心のなかに竜がすんでいる」と告発した。花白は孤児院に蔵書してある本をよく読んでいて、物知りだった。
「姉さん……竜がまだ生きているはずがない。
竜はね、何百年も前の英竜戦役の時、人類に絶滅させられたの。
その時人は、竜殺しという危ない武器をつかって、竜を殺したの」
「いるったら、いるんだよ」
花白はあきれたように鼻を鳴らすだけで、求人誌に目をもどした。
そろそろ孤児院をでる歳になるから、必死に職探しをしているみたい。
やがて一段落したのか、雑誌をとじ、立ち上がった。
「姉さんでも働ける場所があればいいね」花白は私の頭をなでた。私たちは同い歳のはずだけど、私は花白の身長の半分ほどしかない。
「またお姉ちゃんを子ども扱いしてー」
「はいはい、そんなにはしゃぐとお菓子が口からでちゃうでしょう」
竜は夢をみる時に、たまに目のまえにあらわれる。
どこかのきれいな雪原の空を、優雅にとんでいるのだ。
この町はずーっと雪がふりつづいている。
あなたたちがここにくるまでは、そんなことなかったんだけどね~とシスターたちは苦笑しながらいっていた。
作物が育たず、交通の利便性も悪く、町の人々は、あきれたようにでていった。
やがて、資金繰りが難しくなり、孤児院はとりこわされた。
捨てられていたローブに身をつつみ、夜の町をさまよう。
廃棄された食材を拾い集め、なんとか飢えをしのぐ。
町はずれの森の中に、獣に荒らされた木造りの小屋をみつけた。
水道はとおっていないようだが、歩いてすこしの場所に川があった。
物置には工具類があったので、花白は、次の日から小屋の補修作業にとりかかった。「姉さんはどうする? 手伝ってもいいけど、危なくないかな」
(トンカチは、重すぎる……)私は森の動物たちとたわむれていた。
「くれるの?」
散歩していると、森にすむ動物たちが、木の実やキノコをわけてくれる。
さらには、肉が欲しいとおもえば、リスやウサギが、高木の上から身投げして、首を折り、己の肉を私によこした。
「姉さん、これ……」私が彼らの躯をわたすと、花白は怪訝な顔をしながらも、刃をとおし、食べられるようにしてくれた。
最初のコメントを投稿しよう!