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10
「ひょっとしてこの手の甲の梵字って」
「青龍だ」
「そうだったのね」
フェイが紅花の目を見つめながら手の甲にキスをする。フェイの目はいつもの澄んだ青よりもどこかギラギラした雄の目だった。
「嫌がる事はしないと……誓ってやれそうにない」
「ぷっ。いいよ。その代わり私が何を言ってもやめないで」
「っ! 紅花!」
フェイが噛り付くような口づけをくれる。舌を吸い上げられ、息が出来ない。
耳元で紅花って呼んでくれる低音が愛おしい。抱きしめられて胸の鼓動を感じて、広い背中に腕を回す。うなじを軽く噛まれて声にならない声が出た。甘く湿った声だ。
「ぁっ。私、フェイが好き。大好き」
「紅花……愛している」
偽りのない言葉に嬉しくて涙が出る。甘やかされる様に身体と心を開かれる。苦しかったのは受け入れる瞬間だけ。フェイはゆっくりと時間をかけ紅花とひとつになった。与えられる悦楽に酔い、あとは心のままに翻弄され求めあい重なり合った。蕩けるほどに何度も何度も……。
気が付けば紅花の手の甲にはくっきりと梵字が浮かんでいた。もう二度と消えることはないのだろう。他の梵字はすべて消えてしまった。きっとこれは四神の一人を。フェイを選んだという意味になるのだ。
◇◆◇
「見て! 青龍だっ!」
子供たちが叫ぶ。キャラバンの上空に泳ぐように飛ぶ青龍が現れた。
「おお。無事に神聖化できたのじゃな。最後に姿を見せに来てくれたのか」
「おばば様~!」
紅花は青龍の背から降り、おばば様に駆け寄った。
「紅花。なんと。綺麗になったのぉ」
「おう、紅花! 来てくれたのか!」
「敏! もぉ皆、勝手に街から出て行っちゃうんだもん。探したのよ」
「は? だってお前フェイと一緒に行くんじゃないのか」
「……青龍国はまだもっと東だ」
フェイがぼそっと告げる。
「ふふ。だからまたしばらく一緒に旅したいの」
本当は青龍の背に乗って空を飛んでいけば早いのだが、もう少しだけ皆と一緒にいたいという紅花の願いをフェイが聞いてくれたのだ。
「紅花! 戻ってきたの?」
「宇軒、なんだかちょっと見ない間にカッコよくなったね」
「うん! 俺っ身体鍛えてキャラバンを守れるようになりたいんだ!」
「……そうか。では東に着くまで俺が鍛錬してやってもいい」
「え? フェイが?」
宇軒は目を丸くした。今のフェイは青龍の化身だ。
「せ、青龍さまに教えていただけるってこと?」
「紅花がここにいる間は俺はただのフェイだ」
「やったあ!」
キャラバンの皆の笑い声が響く。次の進路は東、竜たちの故郷だ。ふと見上げると青空に虹がかかっていた。それはまるで新たな青龍とその花嫁の誕生を祝ってるかのようだった。
おわり
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