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「紅花〜! ご飯食べよう。今日は肉入り饅頭だよ~」
キャラバンには紅花よりも年下の子達がいる。それぞれ日替わりで食事や掃除、子守を担当していた。今日の担当は宇軒だった。紅花の次に年長だ。やんちゃだが、兄貴肌なところもあり幼い子達の面倒をよく見てくれている。紅花も最近までは日替わりだったが、十六歳をすぎたあたりから担当が変わった。浄化と治癒のチカラに目覚め、衛生や薬草全般の管理を任されることになったためだ。
「うん。美味しい。味付けもしたの?」
「へへ。味付けはコックのスーさんだけど蒸したのは僕たちなんだ~」
「ホクホクとして上出来よ。でもやけどに気を付けてね」
「うん。ところで紅花はフェイといて怖くないの?」
「え? フェイが怖いって? どうして?」
「だって、いつも睨んでるじゃないか」
「あはは。そんな風に見えるのね。フェイは睨んでるんじゃなくて皆を守ってるの。用心棒が普段からニコニコしてたら敵が襲ってきても舐められちゃうでしょ?」
「そっかぁ。でも、やっぱり怖いよ」
「フェイはね。悪いことをしたら叱ってくれるし、良いことをすればちゃんと褒めてくれるよ。賢くて芯が強い人なんだよ」
「そうなの? ……わわわ。ごちそうさま! お片付けしてくる」
宇軒が急に席を立ったのを見て不思議にしてるとフェイが隣に座った。どうやら今のやり取りを聞いていたようだ。
「フェイも食べるよね? どうぞ」
紅花は皿に肉饅頭を三個ほど乗せてやった。
「……」
「どうしたの?」
俯き加減に固まってるフェイを覗き込むと視線が揺らいでいた。
ええ? まさか照れてるのだろうか?
「ふふふ。フェイって可愛いとこあるよね」
今度はばっちりと視線があった。フェイの目じりがほんのりと赤い。
「……紅花のほうが可愛い」
耳をくすぐるような低音に思わずうっとりする。
「かなり南まで来たよね。今度の土地は暑いところらしいね」
紅花はとりとめのない話を続ける。少しでもフェイと一緒に居たいからだ。
「……ん」
「南って言えば朱雀が護る地かな? 」
「……ん」
「結構、信心深い人が多いって聞くわよ」
「……朱雀は不死鳥だ。不老不死を願う狂信者もいる。気をつけろ」
フェイは表情は変えないが、大事なことはきちんと長く喋ってくれる。
「そんな、私達はただのキャラバンじゃない。気を付けることもないでしょ?」
「…………いや。お前は可愛くって狙われやすいから」
「ひぇ……あ、ありがと」
そしてたまに心臓に悪いことを言ってくる。紅花は自分の顔が熱くなってきたのを感じる。だけど興奮して呼吸が荒くなると発作が起こる。だからおばば達にはいつも心穏やかに過ごせと言われていた。
「……紅花」
こういうときフェイはいつも紅花の手を取る。手の甲を擦ってもらうと不思議と紅花の呼吸が落ち着いてくるからだ。
「もう……大丈夫。身体が弱くて心配ばかりかけてごめんね」
「……」
フェイは口を開いたが何も言わずにまた閉じてしまった。
「いいよ、何も言わなくても心配してくれてるのはわかっているよ。フェイが本当はとても優しい事に私はちゃんと気づいているから」
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