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キャラバンが目的地に着いたのは陽が傾いた頃だった。朱雀が護る土地の中でも大都市ナンクォは華やかな街だった。街には縁起物の文字が書かれた赤い提灯がたくさん飾られている。建物も洒落ていて透かし彫りの柱やはめ込み式の格子窓の形もさまざまだ。店もたくさんあり、小籠包や麺や串肉を焼いた香ばしい匂いが漂っている。
紅花達一行は大通りの外れにキャンプを建てることを許された。
「これだけ大きいと外からくる者に対しての警戒もかなり厳しいんだね」
「そうじゃな。それだけ厄介な事も多いということじゃがな」
「おばば様はあまり長くは居たくなさそうね。こんなに綺麗な街なのになぁ」
テントを張り終えると美しい街並みを一目みようと子供達が騒いだ。
「しばらくこんな大きな街に来てなかったから、皆んなで見に行こうよ! 明日からは荷解きするから観光なんて出来ないでしょ?」
「そりゃあそうだが。ウロウロしてるとすぐに陽が暮れちまうぞ」
「じゃあ、私がついて行くわ。今夜の食材も購入したいし」
「仕方ねえな。フェイもついて行ってやってくれるか?」
「……わかった」
「いいかい。そのかわり、勝手に走り出したりしないこと。ちゃんと言う事を聞けたらご褒美におやつを買ってあげるからね」
「わあい。ぼくら言う事聞く!」
キャンプ地から大通りまではそんなにも離れてはいなかった。
街は美しかった。子供たちはあちこちを見て回りフェイは捕まえるのが大変そうだ。日よけの大きな葉っぱで作られた屋台に、珍しい食材や卵の蒸しパン。草団子。芋の飴炊きや香辛料の品々が並んでいたがどこの店も暗くなる前に店を閉めようと片付けに入っていた。
「大変。店が閉まる前に買い出ししなくちゃ。コックのスーさんに叱れちゃう」
慌てて買い出しに夢中になり、気が付くとフェイと子供たちがいない。
「あ……あれ? おーい皆ぁ! フェイ?」
大声で呼んでみても辺りには誰もいない。
「困ったわ。迷子になっちゃったみたい。情けないなぁ」
辺りは陽も陰り薄暗くなっていた。
「よぉ。あんた一人かい?」
「可愛い顔してるじゃねえか。遊んでやろうか?」
路地裏からニヤついた男たちが現れた。物取りかもしれない。紅花は食材の入った袋を抱え込んだ。大事な食料を盗まれるわけにはいかない。
「色が白いな。お前、この辺の者じゃねえな」
この街の者は皆、陽に焼けた肌をしていた。紅花のような白い肌をしているものはいないのだろう。男たちはじりじりと間合いを詰めて逃げ場をなくしてくる。
「そこをどいてよ!」
「おやおや、怒った顔がまたそそるねえ」
男が紅花の手を掴んだ。
「なんだあ? 手の甲にあざが浮き上がってきたぜ」
紅花は興奮すると身体に痣が出て来てしまう体質だった。痣が出ると発作が起きて熱が上がって動けなくなる。逃げようと身をよじった隙に食材の袋を取られてしまった。
「返しなさいよ!」
「はっは〜威勢が良いな。お嬢ちゃんが俺らの相手をしてくれたら返してやってもいいぜぇ」
男はじりじりとにじり寄ってくる。
「うるさいっ。離しなさいっ。 触らないで!」
紅花が暴れるともう一人の男が後ろから羽交い絞めにしてきた。
「おうおう、生きが良いなあ。俺が抑えるから前からヤレよ」
どさくさに紛れて腰や胸をわし掴みにされる。撫でまわされて気持ちが悪い。
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