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4
「イヤだっ! たすけて! フェイッ!」
ビュンッと風が吹くと黒い影が舞った。男たちが次々と薙ぎ払われていく。気づくと紅花はフェイの腕の中だった。
「紅花っ! 無事か?」
「フェイ? 怖かった。フェイごめんっ」
フェイが紅花を探して助けに来たのだ。紅花は思わず泣きそうになるのを必死にこらえながらフェイの目を見つめる。
「……っ!」
急に紅花はフェイにぐっと抱き寄せられそのまま口づけされる。突然のことで息もできない。震える手でフェイの胸を叩くとハッとしたように紅花から離れる。その瞬間、背後の男が襲いかかってくるのが見えた。
「フェイっ!」
紅花の声に振り返ったフェイが男に向けて回し蹴りをした。
「フェイ! 紅花! 無事か?」
この声は敏だ。帰りが遅いことを心配してきてくれたようだ。
「ちっ! 連れがいたのかよっ」
男たちは逃げるようにその場を離れて行った。
「あいつら……」
「フェイ! 追うんじゃない。騒ぎが大きくなる」
「……っ。わかった」
「ごめん、私が悪いの、買い物に夢中になってしまって。宇軒達は無事?」
「ああ。菓子屋の前で固まってたぜ」
キャンプに戻ってから紅花達はおばば様たちに、こっぴどく叱られた。迂闊すぎた行動と、来たばかりの土地で騒ぎを起こすと明日からの仕事に影響が出るからだ。下手すると二度とこの街に来られなくなってしまうという。
「紅花よ。明日以降単独行動は禁止じゃ。必ずフェイか敏の傍にいるのじゃ。決して二人から離れるではないぞ」
「はい……ごめんなさい」
「仕方ないわよね。着いたそうそうに迷子になって、大事な食料を取られそうになるなんて。宇軒達にエラそうに言えないわ」
落ち込んでいるとテント前に小さい影がひょこひょこっと見える。紅花を心配してるのだろう。
「隠れてないでおいで」
「紅花! 大丈夫?」
紅花の声に弾けるように宇軒と子供達がどっと押し寄せてきた。
「僕たちお菓子屋の前で待ってたんだ!」
「うん。僕甘いつぶつぶいっぱいの揚げパン!」
「ぼ、ぼくは丸いキャンディー」
「こらっこらっ。菓子の話じゃないだろ! 今は紅花が無事か確認にきたんだろ!」
「あ~、そうだった。へへへ」
「みんな、心配かけてごめんね。お菓子はまた買いに行こうね」
「いや、敏が買ってくれたから紅花はもう外に出ないほうが良いよ」
「そ、そうだね……。宇軒にも言われるなんて、私って情けないよな」
「違うよ。紅花は綺麗だし笑うと可愛いから危ないって気づいたんだ」
「へ? えっと、ありがと?」
(宇軒はきっと私を慰めようとしてくれてるのね。年下の子に気を使わせるなんて僕って本当に私って頼りないな)
「わわっ。皆っ。そろそろ寝ようぜ」
ぱっと宇軒達が雲の子を散らすように去っていく。不思議に思ってるとすぐに原因はわかった。
「紅花……」
フェイだ。あの後、別々にキャンプに戻ってきたので会えてなかった。
「フェイっ。大丈夫? おばば様たちに怒られたんじゃない?」
紅花が駆け寄るとフェイが眉をさげた。
「……怒ってないのか?」
「え? 何を? フェイは私を助けてくれたじゃない」
「だから……その」
「どうしたの? ……あっ」
気まずそうなフェイの顔を見て紅花はフェイにキスされた事を思い出す。
「えっと、その……あの……嫌じゃ……なかったわよ」
「っ! 本当か?」
「うん。ちょっと……驚いたけど」
「そうか。……紅花が誰かに触れられるのが嫌だ。それにあんな顔、他の奴らに見せてはだめだ」
フェイの目じりが赤い。若干声に怒りがこもっていた。
「あんな顔がどんな顔かわからないけど、私も知らない誰かに触られるのが嫌だった」
「これからは俺の傍から離れないでくれ」
「うん。わかった。心配かけてごめんなさい」
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