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5
翌日は晴天。街の人々はキャラバンが旅先で仕入れた交易品を一目見ようと集まってくれた。東方からの魚醤や豆製品や西方の布製品なども人気がある。さいさきの良い出だしだった。
「おい。この店に黒装束の男がいるだろう?」
突然、役人らしき数人の男たちがキャラバンにやってきた。
「え? フェイのことかな?」
「こいつだ! 捕まえろ!」
役人たちがフェイを取り囲む。身構えるフェイを止めたのはおばば様だった。
「どうされたのじゃ? うちの用心棒に何か用ですかな?」
「昨日、被害届が出ているのだ。ケガ人が数人出ている。着いた早々街で暴れるなんてお前ら何を企んでいるのだ?」
「は? 被害にあったのはこっちじゃないの」
紅花が役人に声をあげようとするのを敏が制した。
「ばか。感情的になるとフェイの印象が余計に悪くなる。ここは一旦引くんだよ。あいつは悪いことはしてない。直ぐに釈放されるように俺達も直訴するから」
「フェイっ」
「……大丈夫だ。皆に迷惑はかけない」
紅花は、無表情のまま拘束され連れていかれるフェイの後姿を目で追っていた。
それから三日たっても、未だにフェイは戻らない。敏やおばば様達にも焦りが見え出した。フェイはもうキャラバンにとって必要な人員だ。こちらは保釈金も払うし、なんならこの街を立ち退いてもいいとさえ提案してる。だがフェイは捕えられたままだ。
なにかがおかしい。他に目的があるようにしか思えない。
紅花は皆の目を盗んでは役場に行ってフェイの様子を伺っている。今日も会わせてはもらえなかった。面会もさせてもらえないなんてやはりおかしい。
紅花は考え事をしていたせいか、後ろからつけられていることに気づかなかった。
◇◆◇
くらくらと目眩がする。身体が思うように動かない。役場からの帰りに背後から口を塞がれ何かを嗅がされた。意識を酩酊させる薬だったに違いない
「へへ。綺麗な肌だなぁ」
「おい! やめろっ、贄に手を出したらお前、ただでは済まねえぜ」
「ちっ! わかってるってばよ! ったく、勿体ねえな。何も手も出さねえで献上しちまうなんて」
(献上? 何のこと? ここはどこなんだろう? 身体が重い)
「司祭様がいらっしゃった」
男たちが急に静かになる。ここの実力者がきたのかもしれない。
「贄を見つけたと報告を受けたが、今度こそ本物であろうな?」
「へい。こいつです。」
男が紅花の髪を引きずり、顔を上げさせた。
「これは……貴様っ! 贄さまに傷をつけるでないわ!」
司祭と呼ばれた老人が手に持っていた杖で男を叩きつけた。鈍い音が聞こえる。
「ぐぇえっ……」
「ひぇえ。す、すみません。」
「この顔、確かにスゥシェン国の王妃によく似ておる。手荒なことをしてすまなかった」
「う……こ……こは……どこ……」
薬のせいか声が出ない。紅花の様子を見て老人が声を荒げた。
「お前ら! 贄さまに何をしたのじゃ!」
「え?、いや、ここへ搔っ攫うときに暴れるといけねえのでちょっと薬を」
「馬鹿ものどもめ! 容量を間違えると白痴になるのじやぞ! そんなもの神が気にいると思うてか! 早く解毒剤を持ってこぬか!」
「ははっ、申し訳ございません」
「さあ、これを飲め。案ずるな。手荒な真似をしてわるかったな」
老人は紅花に解毒剤を与えた。
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