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6
次に目覚めると紅花は布団に寝かされていた。朱塗りの細かな細工の柱。壁には朱雀の絵が飾られている。奥から白地に朱雀の刺繍のある官服を着た老人が現れた。
「目覚めなされたか。よかった。あの者達は野蛮でな、申し訳なかった。わしはこの街の司祭じゃ。怪しいものではない。わしはそなたとはきちんと取引をしたいと思うていたのだ」
「取引?」
「そうじゃ、取引だ。そなたの連れを助けたくはないかの?」
「連れ? フェイのこと?」
「おお、そうじゃ。フェイというのか。そいつは今わしの手にある。それも野蛮なあいつらが酷い目にあわせてるようでな。大人しくさせるためにそなたに使った薬もつかっておるようじゃ」
「え? 私に使った……? でもそれって使いすぎるとよくないって言ってましたよね?」
「そうじゃ。強い薬は害になる。思考や動きを止めようと使いすぎると白痴になって廃人になるのじゃ」
「そんなっ! ひどいっ。フェイを助けて! 助けてください」
フェイの身に何かあったらどうしようと紅花は心配で鼓動が早くなる。体が熱くなり軽い発作が起こり、息をするのがつらくなると紅花の身体に痣が浮かび上がってきた。
「おおっ! 間違いないっ。贄様じゃ。本物じゃ、ようやく見つけたわい」
司祭は紅花の手の甲の痣をみて目を輝かせた。どうやらわざと紅花を興奮させることを言ったようだった。
「あなたは……何が望みなのですか?」
「簡単なことじゃ。フェイを助ける代わりにそなたが自分の意思でわしの元に残るのじゃ」
「私の意思で? どういうことですか?」
「高貴な魂ほど清く強い意思を持った者に惹かれるのでな」
「……どういう意味ですか?」
「そなたは遠い異国の皇女だったのじゃよ。数十年、数百年に一度、生まれるという四神の贄となる皇女なのだ」
「四神の贄?」
「そうじゃ。我らの願いを叶えていただく贄様なのじゃよ」
司祭が言うには四神に願い事を叶えるために生贄にされる皇女が紅花だというのだ。紅花が産まれたと同時に皆、四神の贄を欲しがったという。それさえあれば願いが何でも叶うからだ。やがてそれは戦へと広がり、戦乱の中、紅花は行方不明になったらしい。
「私が生まれたことが戦への引き金となったの? 信じられないよ」
「この痣が証拠じゃ。これは梵字なのだよ。そなたの身体には四つの梵字が浮き上がるはずじゃ。それは四神を意味するのだ」
「そ……それは」
そのとおりだった。紅花の身体には四つの痣が浮き上がる。でもまさかそんな意味があるなんて紅花は知らない。おばば様は知っていたのかもしれない。だからいつも心穏やかにいろと紅花に教えてくれたのではないか。狙われるのを防ぐために。
「さて、どうする? フェイを助けてわしの元に残り、贄としての役目を全うするか?」
「……本当にフェイを助けてくれるのですね?」
「嘘は言わぬ。わしはこれでも朱雀神に使える司祭だ」
「わかりました。では最後に一目だけ会わせてください」
「よかろう」
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