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 暗くじめっとした地下牢にフェイは捕えられていた。ピクリとも動かず気を失ってるようだった。 「フェイっ。大丈夫なの?私を彼のもっと近くに。お願いです!」  紅花(ホンファ)は牢屋の柵にしがみついて懇願した。 「牢をあけてやりなさい」 「司祭様よろしいんですか? コイツは罪人なんじゃ」 「かまわぬ。この後釈放するのじゃ。どうせ、もう何も覚えておるまい……」  牢屋番が鍵を開けると僕はすぐに中に入りフェイに触れた。薬物の匂いがする。紅花(ホンファ)は周りに気づかれない様に少しづつフェイに浄化をかけた。紅花(ホンファ)は自分のすべてをかけても助けるつもりで司祭に背を向ける形でフェイに浄化をかけ続ける。 「キャラバンに運ばれるのを見届けてから私は(にえ)となります」 「おお。御心が決まったのじゃな。よろしい。すぐに使いをだせ!」  おばば様からはもう両親はいないと聞かされてはいた。ショックだったが紅花(ホンファ)にはキャラバンの皆がいる。だが紅花(ホンファ)は自分のせいで戦が始まったと聞かされショックを受けていた。そのせいで多くの人を犠牲にしたなら紅花(ホンファ)は自分が許せないと思っていた。  やってきたのは(ミン)だった。 「紅花(ホンファ)! こんなところに居たのか! 皆心配してたんだぞ。さあ帰ろう」 「心配かけてごめん。でも私はここに残ります」 「何言ってるんだ!……何があったんだ?」 「さあ、キャラバンの者よ。そやつを連れて戻ってくれ。それに今回起こした騒ぎの責任として明日にはここを離れてもらう」  司祭が有無を言わさず圧力で(ミン)と睨むあう。 「(ミン)、フェイを運んで。お願いだから……」 「聞いての通り、この子は自分の意思で残るのだ。役目を全うするためにな」  ふらつく紅花(ホンファ)の身体を司祭が支える。(ミン)が眉をしかめて黙りこくった。 「(ミン)は知っていたのね? 私が何者かを……」 「……お前はそれでいいのか? ここは朱雀の地なんだぞ」 「私は、役目を全うする事を決めたの」 「くそっ! くそったれめ!」  吐き出すように言うと(ミン)はフェイを背中に抱えその場を後にした。 ◇◆◇ 「さあ、善は急げだ。わしにも残された時間は少ない。ふははは」  紅花(ホンファ)は聖なる水とやらで禊をし薄手の白装束に着替えさせられた。  司祭の家の奥には祭壇があり朱雀の絵が四方に飾られている。多くの信者がいつの間にか集まっており、その異様な興奮度に紅花(ホンファ)は背筋が寒くなった。  司祭に腕を掴まれ祭壇の前まで連れて来られる。何やら儀式をするらしい。司祭のニヤけた顔が気持ちが悪くて仕方がない。しかしフェイに力を使いすぎたのか足元がふらついて抵抗すらできない。 「元よりあいつと会わせる事で残った力を使わせてしまうつもりでいたのじゃ」 「なんでもお見通しだったということですか?もう悔しくも何もないわ。フェイが無事なら贄として食われてもいい」 「ふはは。よくぞ言った」  かくして祈りが始まった。沢山の供物にむせかえるような香が焚かれた部屋で信者の声が重なり合う。紅花(ホンファ)は頭痛がした。 紅花(ホンファ)はキャラバンで普段から薬草を扱う。この香は特殊な効果がある薬草だと気づく。  「ぁぅ……なに。これ……」  身体が熱くなる。両手の甲に梵字の痣が現れる。おそらく背中にも胸にも表れているだろう。それだけではない。切なくて、もどかしく体が疼くのだ。 「ふふ。さあ、(にえ)様。覚醒なさいませ。ふははは。これで、我らは不老不死となるのだ!」  下卑た笑いを浮かべて司祭が近づく。尻を掴まれ全身が粟立つ。苦しさに涙があふれ、それが抱き寄せようとした司祭の腕にこぼれ落ちた。
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