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8
「……ぐっ……ぁあ、朱雀さまっ」
司祭がいきなり光りだした。みるみる美麗な青年へと変わる。
「……なんじゃ、我を呼んだのはおぬしか?」
「あ……なたは、朱雀さまでしょうか?」
「ふむ、降臨術か。禍々しい! で? おぬしが今回のか?」
「はい。私です……もういっそひと思いに食べてください」
「ん~。確かに美味そうだ」
朱雀が紅花を引き寄せ、体中を撫でまわしだした。だけど、これは紅花が思ってる食べてではないと気づく
「え? あの、食べるってもしかして……」
「なんじゃ抱いて欲しいのだろ? 花嫁よ」
「へ? は、花嫁? 贄皇女では? 生贄ではないのですか?」
「なにか間違いがあるようじゃな。人間界ではたまに四神の花嫁が生まれる。我らも代替わりするのでな、その時に花嫁と契る事で神聖化するのじゃ。」
「え? では、私は……」
「ふふふ。そうじゃおぬしはその身にチカラを蓄えた花嫁なのだ。聖なる浄化のチカラは我らには強壮剤のようなもの。我は神聖化しておるが、花嫁の一人や二人増やしてもかまわぬのだよ」
朱雀に今まさに口づけされようとした瞬間……。
「い、嫌よ! ……違うっ」
そうだ、違う。紅花が求めてるのは……ただひとり。
「フェイッ」
その名を呼ぶと紅花の胸の奥が熱く震えた。会いたくて恋しくて堪らない。ああ、そうだ、紅花が求めているのはフェイだ。
「……ああん? おぬし、すでにマーキングされておるではないか!」
「へ? ま、マーキング?」
「何たることぞ。花嫁の涙に誘われてくれば、すでに相手が決まっておるではないか! この司祭……心の中を覗いてみれば……ふむふむ。愚かな奴め! 若返りと永遠の命を我に願うつもりじゃったわ! うつけものめ! そのような事我が叶えると思うてか! ましてや神聖な花嫁の命と交換なぞとおぞましいわ!」
朱雀の髪が赤く染まると同時に部屋の壁が大きな衝撃音と共に壊された。
「紅花!」
そこにはフェイがいた。青い澄んだ瞳が紅花を射抜くように見つめている。それが紅花にはとてもカッコよく見える。それに今日は黒装束ではなかった。青い軍師の服を着ている。たなびく髪は濃紺だ。フェイは壁を壊し朱雀の前に立ちはざまった。外ではいかづちが鳴り響いている。
「……なんだ、お前か……」
朱雀は呆けたように言い放った。
「朱雀、紅花は私のものだ。力づくでも返してもらう」
「ほぉ。引きこもりだったお前がのぉ。ふははははっ。早くこちらにやってこい。花嫁と共にな」
「うっ……」
「フェイっ! もう大丈夫なの?」
紅花はフェイにしがみついた。
「紅花っ」
抱き込まれ、紅花はフェイの匂いに安心する。
「此度は我の信者が迷惑をかけたようだな。時代と共に伝承に尾ひれがついてまったく別のものにならんでもない。しかし生贄などと物騒な。本来花嫁は祝福を受けるべき者なのじゃが。まったく人間とは困った生き物よの。すまぬ。だが私利私欲にまみれたものを信者とは認めたくないものだな。この者達は我に任せよ」
朱雀の背には大きな美しい羽が広がり、二度ほどはばたくと辺りは白い光に包まれ、司祭の屋敷も信者も、すべてなくなっていた。
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