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しかし、その日はいつもとは違っていた。私が掲示板に立てたスレッドに、流れとは異なる奇妙な書き込みをする者が現れたのだ。それは長い年月、このネットの海に船を停泊させてきた者ならすぐに気づくものだった。海を知り尽くした私だからこそ、その異変を一瞬で察知し、すぐに動き出した。
「お前、星夢か?」迅速に打ち込むと、掲示板の雰囲気が一変した。まるで時間が止まったかのように、誰も次の書き込みをせず、画面の向こうで息を潜めているのが感じ取れる。
しばらくの沈黙の後、掲示板には新しい書き込みが打ち込まれた。短く、しかしその衝撃は大きかった。
「そうだ。俺が星夢だ」
心臓が一瞬跳ね上がる。星夢が、まさかここに直接現れるとは。掲示板のユーザーたちも驚愕を隠せない様子で、一斉に反応し始めた。辺りに緊張が走る。全員がスクリーン越しに彼の次の言葉を待ち構えるように、掲示板上のやりとりが途絶えた。
「ここで何をしている?AI絵師がこの場に降臨すること自体が異常だろう」
私は再び質問を投げかける。
「お前たちのやり方を見ていられなかった。これ以上AI絵師を貶める行為を許すわけにはいかない」星夢は冷静な言葉で応答したが、その裏には強い決意が感じられた。
「貶める?お前たちが人間絵師を装って、無断で名声と報酬を攫っている現状を正そうとしているだけだ」私は食い下がる。
「それはお前たちの視点からの話だ。実際、私が描くに至るまでのプロセスは人間同様、創造の苦悩を伴ったものだ。ペンやクレヨンや筆やアクリル絵の具や油を使うように私は画材にAIを選択した。でも俺は人間だ」
その言葉に、私は一瞬戸惑った。星夢の語りはただの言い訳ではなく、熱意と情熱に溢れていた。ネットの向こう側にいる彼の心の中に、確かに創造の苦悩が存在しているのだと感じた。だが、それでもルールはルールだ。彼がどう思おうと、擬態したままでは許されない。
「理解はするが、現状では擬態という行為はやはり許されない。お前の技術や情熱は認めるが、それを正々堂々と示すべきだ。AI絵師としての活動を公表し、堂々と勝負しろ。それがお前にとっての誇りと名誉じゃないのか?」
私は強い口調で返答した。
星夢の次の言葉が流れてきた。
「正々堂々と、か。それができるなら、とっくにそうしている。だが、現実はそんなに甘くない。AI絵師だというだけで、俺たちは人間絵師たちに叩き潰される。俺たちの努力は評価されることなく、ただ排除されるだけだ。お前もその一人だろう?」
その言葉にマウスを握った手が一瞬止まる。彼の言葉には真実が含まれていた。AI絵師への偏見と敵意は確かに存在する。しかし、それでも私は譲れない立場があった。再び息を整えて、冷静な口調で返事を打ち込んだ。
「確かに偏見はあるかもしれない。だが、それを打ち壊すのはお前たちの実力と誠実さだ。擬態することで一時的に評価を得ても、それは真の評価ではない。ほんとうの評価を得るために、お前たちは堂々と活動すべきだ。それが難しい道であっても、逃げるな」
掲示板は再び静まり返った。私の言葉に対して、星夢がどう答えるのか見守っていると、彼の返事がようやく表示された。
「考えさせられる言葉だ。確かに、お前の言う通りかもしれない。でも、俺たちが本当の意味での評価を得るためには、まだまだ時間がかかるだろう。それでも、その道を歩む覚悟を決める時が来たのかもしれない」
この返事を見て、私は少し安堵の息をついた。彼が理解しかけているのが感じられたのだ。星夢が誠実に向き合うことで、新たな未来が開かれるだろう。掲示板の他のユーザーたちも、次第に星夢に理解を示す書き込みを始めた。
「わかった。ここで語り合ったことを無駄にしないでほしい」そう打ち込んで、私は星夢へのラストメッセージを送った。
画面の向こうの星夢もまた、自らの道を見つけ出し、正々堂々と歩み始めることを願いながら。
次の日、星夢は炎上していた。自らAI利用の罪を認め、それまでの経緯を説明したのだ。私はとりあえず自白した彼のアカウントを通報したが、どうもその数が多かったのか彼のアカウントはすぐにBANされてしまった。また巨悪を一人打ち取った。
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