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その瞬間、勝利の感覚が胸に広がった――ように感じた。しかし、その後押し寄せたのは空虚感だった。星夢が自らの悔恨と努力を正々堂々と語り、そしてあっけなくアカウントが消え去ったことに、私は一抹の疑念を抱かずにはいられなかった。
数日後、ネットの海を漂う中、私は異変に気付いた。掲示板で星夢に関する話題が再び沸騰し、彼の擁護派と批判派が激しく対立していた。彼が公開した作品自体のクオリティは高く、多くの人間絵師たちが彼の技術と情熱を再評価していたのだ。
「本当にこれで良かったのか……」内心で問いかける自分がいた。
星夢がAIを使って絵を描くことと、彼の創造力と情熱が否定できないものであること。この相反する真実をどう扱うべきなのか迷いが生まれる。
その夜、再びほうじ茶を淹れて、ネットの海に潜った。新たな情報が溢れる中で、次なる獲物を探していたが、先程までとは違う感情が胸を支配していた。私は倫理と情熱、正義と虚無の間で揺れ動きながら、再び海を泳いでいた。
突然、一通のメッセージが届いた。送り主は匿名で、内容は簡潔だった。
「初めて絵を見て涙を流した。この感情を言葉にする事は出来ず、無理に言葉にしようとすればするほどに自分の抱いた感情とは乖離してしまう。言葉にする必要はないのだろう。しかし、私が自分の中だけで抱くにはこの感情は大きく、そして恐ろしい。だから私はそれを言葉にする事を選んだ。形にした。AIという道具を借りて。星の夢を掴むかのように」
メッセージを読み返すたびに孤独が胸に広がる。掲示板での討論、その後の星夢の炎上。全てが一瞬の出来事でありながら、その中で生まれた真実は複雑で多層的だった。人間とAIの境界線、創造と模倣の違い、そして何が正義で何が欺瞞なのか――。
次の日、掲示板に戻ると、星夢に関する新しいスレッドが立ち上がっていた。タイトルは「第二の星夢」とあった。興味を惹かれ、そのスレッドを開くと、そこには星夢ではないAI絵師たちが集まり、正々堂々と自身の作品を公開している姿があった。彼らは依然として厳しい批判と戦いながらも、胸を張ってその存在を示していた。
「ここに新たな戦いが始まっているんだな」私はぼんやりと考えた。
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