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◇◇◇
「はーい!到着したよ~、有間くん」
握られていた手が解放され、相手の手の熱が徐々に消えていく。
その声に釣られて、キツく閉じていた瞼をあげると……懐かしさのあまりに喉から出かかった声が掠れてしまう。
「……婆ちゃ……ッ」
視界いっぱいに広がっている今。此処は、行きたくて堪らなかった場所だった。
***
幼い頃の夏休みの時。
毎年、お盆時に家族で都内から母方の故郷へ遊び行っていた。
祖母が住んでいる、I県の肥。
祖母の家の裏には青々とした緑がいっぱいの山が一眼とできる。空気が澄んでいて気持ちが良い。
風呂は、地元から湧き出ている温泉と繋っており、滑らかな肌触りのお湯だったことも今でも覚えている。
でも、一番思い出深いのは……海だ。
一般人が利用する肥の海から、外れた場所に洞窟がある。中は、海水と繋がっている細道の奥に祠があると近所の奴らが教えてくれた。
絵日記のネタになると思った俺は、好奇心で一人で足を運んだのだ。
奥へ進むと、その祠があり。それの周りには円状型の海水が存在していた。
天井から差す日差しに映し出された、アイスブルー色。あまりにも美しさに息を吞んでしまうほどにだ。
(此処は、人が来ない穴場って本当だったな!)
それくらい、波の音しか聴こえない空間内。神秘的な風景というべきか。
なのに……妙な感覚に吞まれそうになった。
初めての場所なのに、追慕にふけてしまう。
「ただいま……」
ポツリと無意識に出てしまった、言葉。
怖くなった俺は、逃げ出すようにこの場を去った。
その後、祖母にこのことを話したら、凄い剣幕で怒られてしまった。
理由を聞いても、答えてくれない祖母。
疑問を持ったまま追い出されるようにすぐに実家へ強制的に帰宅されたのも、今でも覚えている。
あれから、十七年。今だに理由が分からないままだ。
最期、祖母に会ったのはーー今から六年前の冬。十九歳の時だった。
クソ店長から渋々貰えた忌引き休暇。
変わらぬ穏やかな安息しきった表情の大好きな人に、やっと会えた。
皆に好かれていた祖母。母、父、祖父、祖母の友人も参拝者の全員が、哀しみのあまりに啜り泣く一景に広がっていた。
それから六年後。
やっとたどり着いた場所が、目の前に広がっている。
「━━婆ちゃん、久しぶり!やっと、墓参りに来れたよ」
懐かしい思い出に浸りつつ、涙が止まらないまま両手を合わせた。
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