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ブラック企業の勤務を終え、帰宅途中の夕方。
「ーーねぇ、行かなくて良いの?」
また出会った、黒のワンピース少女。
しかも、再度寺の門の前でだ。
ついで言うと。この言葉を言われるのは、今日で10日目。
毎回、毎回。いきなり現れて、先程のことを一方的に言われる。
それも毎度の如く、泣きそうな表情でだ。
そして、夕日が沈むと。ーー姿が消える。
二回目に会った後。昨日と同じように消えた相手。
隠れてやがるな、と察し。
周りにある電柱の裏、寺の出入り口の壁の裏側、そのまた付近の駐車場に停められている車の陰などを探した。
だが、ーー居なかった。
偶然、後片付けで出入り口の掃除をしていた住職に少女の事を聞いたら。
「……いや。うちには、そんな子居ませんよ?そもそも、うちは成人した長男と奥さんの三人暮らしですのでね」
との、回答。
今日も、ミーンミーンと五月蝿く自己主張する蝉の声。耳にこびり付く中、生命の血潮である一時を感じる夏の風物。
加えて、肌に纏わりつく暑さなのに。
今の俺には、何も感じられなかった。
寧ろ、冷水をぶっかけられたようにーー血の気が引いた瞬間であった。
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