黒アゲハ

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…  出会って、十三日目のことだった。  十日目の住職から聞いて以来。気味が悪くなった俺は帰宅ルートを変えることにした。  いつものルート道である寺の前を通らず、住宅が並んでいる一本の裏道を利用しすることに決める。  別のルートだと遠回りになるから、寺の前を通勤通路にしていたが……。  この十日間、ストーカー少女に待ち伏せされ、訳分からないことを一方的に言われる。そして……夕日が落ちると共に ━━━━ 消える  そんなこと続いて、不眠症になり、纏わりつくような情緒不安定が続いたため、仕事面にも影響が出てしまった。  昨日、一昨日、と帰宅ルートを変えたら、パタリと出会うことが無くなった。  夕日が俺だけしか、映していない今。  普段は、何も思わない。と言っても……「今日も疲れたなぁ……。あの店長、リストラされないかなぁ」と一人愚痴るのが日課である。  正直、俺は店長が嫌いだ。デスクワークという名の〈サボり〉をするからだ。  だけど、今はクソ店長なんかより……今、何事も起きないこの瞬間に喜びを噛みしめている。  現在、夕方六時。この道に俺しかいない ━━という事実に。  明日は、久々の公休に胸が躍る。二週間ぶりの休みに嬉しさで、無意識に口元が緩んでしまう。  歓喜な気持ちの中。手元に持っている缶ビール三本、つまみ用のカルパス、カップヌードルを五個が入った凸凹状態のレジ袋を見る。  もうすぐ、八月が終わる。 (あと、一週間後で……九月か。早いなぁ……。いや……、高卒して社会に出てから、あっという間な七年間だったな……) 「━━━━でも!やっと、解放されたぜ!!それにしても、あの子なんだったのだろうな?一方的に〈行かなくて良いの?〉とか言って来て、気味が悪かったぜ……。さて、家に帰ったら借りてきたDVDをみ……」     「━━……お兄さん。そろそろ、行かないと……〈お兄さんの大事なーー〉が泡になって消えちゃうよ?」  一人しかいない道に ━━突然の声。  自身の顔をうつ向いている時だった。  前方から聞こえてきた、最近聞いた馴染みのある悲しみ溢れる声色。  その声だけで、身体が金縛りにあったように固まってしまう。この現象は、嫌で察してしまった。━━拒絶反応だと。  途端、冷や汗がドっと全身に溢れ、そよ風が吹くとヒヤリと纏わりつく冷たさが広がる。  共に、呼吸が浅くなっていく感覚。  視線だけ、ゆっくりと前方を向くと。見慣れた黒のワンピースの裾。  更に、上へと視線を上げると。次に視界に入ってきた、ゆらりと揺れる黒の三つ編み。  やっぱり……、アイツだった。 ━━━━あの時の少女が、影薄く立っていた。  
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