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「お兄さん、早く行かないと……みんな泡になっちゃう」
━━そして、現在に至る。
昨日に引き続き、宇宙さんの助言のまま。
例の場所へ足を運ぶとアイツがいた。
夕日をバックにし、坂の上に静かに佇んでいるアイツ。いつもは悲しそうな顔が見えるのに……、表情が見えない。
逆光のせいだろう、顔がクレヨンで塗りつぶされたように真っ黒だった。
不気味さが増して、足が竦みそうになる。でも、今回はこちらとて違う!
「おいッ!この数日、現れたり消えたりして……何なんだよッ!お前!!」
ここで、決着をつける!
何で、俺がこんな子供に怯えないといけないんだッーー!!
意気込んで、ズンズンと相手に足早に近づきながら、今まで一方的に与えられた恐怖、疎ましさなどの溜まっていた複雑な思いを吐き出した。
今、俺と少女しかいない一本道。
寺の出入り口付近にて、周りに囲まれている岩の塀が声を反響し響き渡る。
今でも、ミンミンと鳴いている蝉の命の叫びと同じように。
そして、ようやく辿り着く。
逆光で見えなかったと思っていた顔を見て、━━絶句した。
本当に黒く暗くブラックホールを連想させる、真っ黒だったのだ。
目も口も、鼻も無い。ーーただのBLACK一色。
吸い込まれるような、漆黒。
ここで、後悔をした。ーー来るんじゃなかった、と。
それでも、少女らしきモノはこちらへ顔を見上げて
「お兄さん、早く行かないと……」
再度、同じ言葉をポツリと。
そして、俺の手を弱弱しく掴もうとするが見えていないのか空振りで終わる。
ここまできたら、壊れた玩具のようにリピートしているストーカー。攻撃できないとなると……
ただ、ただ、気味が悪いだけの人形と言っても良いくらいだ。
それなら……こちらが怯える必要性は、どこにも無い!
そう思った瞬間、数日間の怯えていた自分が馬鹿馬鹿しく感じ始める。
遠回りしてまで帰路を変えていた時間、仕事を差し支えるくらい不安な気持ちのまま過ごしてきた無駄な日々。
そう結論づくと、胸の奥からムカッ腹が込みあがってきた。津波のように、押し寄せてくる怒り。
昔、幼少期に祖母から教えて貰ったことを、ふと思い出す。
人間の怒りには、六つのタイプがある。
1.公明正大
2.博学多才
3.威風堂々
4.外柔内鋼
5.用心堅固
6.天真爛漫
それぞれの内容を思い出すと、俺は〈用心堅固タイプ〉だなぁ……と改めて納得してしまう。
そんな場違いなこと思い出しつつ。荒ぶっている感情に踊らされていると、無意識に少女の形をした〈ナニカ〉の胸倉を掴んでいた。
頭に血が上っている状況下、これ以上はダメだと分かっていても相手の黒のワンピースが強く、強く、皺ができる一方。それでも、「はやく、ハヤく……行かないと」と、懲りずに言葉を続ける、黒い物体。
俺の掴んでいる手の力も強くなるままだ。
「ーー〈早く行かないと〉って……ずっと、ずーと、五月蝿いんだよッ!!お前。
だったら、行き先を言ってみろよッッ━━!!馬鹿の一つ覚えみたいに言いやがッて……」
なんで、俺がこんな思いをしなきゃいけないんだ!そんな気持ちに押しつぶされ吐き出す。
我慢していた思いを、我武者羅に叫び。
そして、掴んでいる手を岩壁に ーーー全身を叩きつけた。
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