第一話 神父の純潔

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 男は靴を脱ぎ、綺麗に揃えて家に上がると、恐縮している女に微笑み掛けた。目元が見えないから正確な感情は読み取れないが、少なくとも男の声色は柔らかで澄んでいた。 「私よりもご子息の大輔さんのご様子が心配です。本日自宅にお戻りになられたとか」 「はい……夕方に鎮静剤を打って病院から連れ戻りました。今は睡眠薬を飲ませて眠らせています」  女に案内されて廊下を進む。板が歩くたびに軋んだ。 「大体の事情はお聞きしていますが、鎮静剤が切れている時や眠っていない時のご様子はどうですか?」 「身体を縛っておかないといけないほど暴れています……それに、その……酷い暴言を……そういう子じゃなかったんですが、引きこもるようになってからずっとそうなんです……」  廊下の突き当たりにあった階段を上る。二階に辿り着くと、木製のドアのある部屋の前で足を止めた。恐らく女の息子の部屋なのだろう。 「大輔さんは病院では女性の医師や看護師に対して卑猥な言葉を発していたと伺っています。それについて一つお聞きしたいことがあるのですが、宜しいでしょうか? 答えにくければ無理にお答え頂く必要はありませんが……」  意味深に言葉を切る男に、女は「なんでしょう」と不安げな表情で向き合う。 「大輔さんは、今まで性的な虐待やいじめを受けたことはございませんか?」  その言葉に女は目を見張った。思い当たることがあったのだろう。視線を足元に落とし、服の裾を握った。 「……高校一年の時に……部の先輩からシゴキと称して裸にされて、性的なことを強要され……それを動画に撮られて……」  涙ぐんで女はそれ以上言葉を続けることができなかった。
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