第一話 神父の純潔

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第一話 神父の純潔

 深夜二時、古ぼけた二階建ての日本家屋の前に一台の丸いフォルムでレトロな見た目の黒の小型車が停まった。エンジンが止まり運転席のドアが開く。  降りてきたのはカソックに紫のストラと十字架を首から掛けた細身の男だった。年は二十代だろうか。ストレートの黒髪のマッシュヘア、夜だというのにグレーのレンズのリムレスサングラスを掛けている。  黒の手袋をしていて首から上しか露出しているところがないが、肌は透き通るほどに白い。赤い唇の左端に二つある黒子は蠱惑的ですらあった。  男が訪れたのは住宅街の中にある家で、周囲が垣根に囲まれている。垣根の高さは男の背よりも少し高いくらい、一八〇センチくらいだろう。  外からは背の高い者以外は中を覗くことはできない。また垣根を越えて出入りすることは不可能ではないが容易ではないだろう。  門扉を開けると甲高い金属音が鳴る。男は玄関の引き戸の前に立つと、二回軽くノックした。インターホンがついているが、鳴らさないという家主とのやり取りがあったのだろう。  すぐに磨りガラスの向こうにぼんやりと明かりが灯り、人影が近づいてくる。そして解錠する音の後、戸がゆっくりと開いた。  現れたのは白髪混じりの小柄な中年の女だった。ふくよかな体型だったが、憔悴しているようで青白い顔をしていた。 「神父様……! お待ちしておりました」  男を見ると女の表情が安堵したようにわずかに明るくなる。「どうぞ」と中に招かれて男は玄関に足を踏み入れた。 「このような遠いところまで御足労頂いてしまって……お疲れでしょう。お茶をお出し致します」 「いえ、私はドライブが趣味なものですから、お気遣いなく」
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