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「申し訳ありません……お辛いことを思い出させてしまいましたね。しかし、ご子息がこうなってしまったのは、奴のせいだと確信が持てました」
「で、では、大輔は……!」
「ええ。間違いなく私の仕事です」
男はドアを見詰めてそう言うと、胸ポケットから小瓶を取り出し、女に手渡した。
「この聖水を家の角と門扉の外に撒いてください。そして私が門扉の外に出るまで決して敷地内に立ち入らないようにお願いします」
「はっはい……!」
女が階段を駆け下り玄関の戸が閉まる音がした。静寂が訪れ、男がドアノブに手をかける。と、空気が張り詰めるような緊張感が立ち込めた。
ドアノブを回し、部屋に踏み込む。勉強机と本棚が目に入った。奥の方に身体を向けると、窓際のベッドに両手両足を固定された少年が横たわっていた。
食事を十分に取っていないのか手足は痩せ細っている。顔面蒼白でやつれた様子だが、目鼻立ちがはっきりしているので、元は整った顔をしていたのだろうことが分かる。
「狸寝入りは止しなさい。私がこの家に立ち入った時から、『見て』いたでしょう」
少しの沈黙の後、静かに少年の上体が身体を起こすような動作もなく、ふわりと起き上がった。瞳は閉じたままだ。
「今すぐ大輔さんの身体から出ていけば赦しましょう」
「ククッ……赦す?」
およそ十代の声とは思えぬ男の声が少年の口から発せられる。窓ガラスが風もないのにカタカタと音を立て始める。
「誰に口を利いている? 赤ん坊に等しい神父の分際で!」
目を開けた少年の虹彩は金、瞳孔は爬虫類のように細かった。青白い肌に血管が浮き出ている。その容貌は人間とは言い難いものだった。
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