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部屋着のまま、ぱたぱたと出ていくと真奈は軽く手を挙げて合図をした。
「早いよ、まだメイクも着替えもできてない」
「ごめんごめん」
真奈はちょっぴり強引だ。
「でも朱里の力になりたくて」
それでも真っ直ぐで優しい。そんな真奈に何度も救われてきた。
「ありがとう、それじゃよろしくね」
そう言って真奈の軽自動車の助手席に乗り込んだ。
真奈はこのあたりで有名なドライブ道に乗り込んだ。海沿いを延々と走る広くて解放感のあるドライブコースだ。ゆっくり話すにはたしかにちょうどいいなと思った。太陽がちょうど沈みかけていて西日が真奈に差し込んでいた。六時半にもなろうというのにまだ少し明るい。真奈は眩しそうにバイザーを下げた。ブーンとエアコンとエンジンの音が車内に響いている。真奈は運転中に音楽をかけない人だった。
「今日は無神経なメッセージ送ってごめんね」
真奈が口を開いた。低いトーンから申し訳なさが伝わった。
「そんな、気にしないで」
私は慌てて返事を返す。真奈の調子に逆にこっちが申し訳なくなった。そんなの真奈が悪いわけではないのだから。
「本当にごめんね、でも別れるとは思ってなかったから」
真奈はちらっとこちらの様子を見てぽつりと言った。
「そうだね」
口角をくいっと上げて私は半笑いで答えた。私の頬は硬かった。きっとうまく笑えていなかっただろう。
「どっちから?」
「……こっちから」
「そっか」
真奈は一言だけそういうと口を結んだ。相変わらずエンジンとエアコンの音が車内を包み込んでいる。
「あっけなかったなあ」
「え?」
「いや、なんでもない」
現実味がなかった。これまで過ごしてきた時間も、今まさに真奈と過ごしている時間も、全部がわざとらしく嘘っぽく感じた。
「たった先日、M大学に所属している朱里さんが●●と別れました」
「現在、親友の真奈さんと傷心ドライブに付き合ってもらっている模様です」
そんなニュースを知らない誰かになって観ているような感覚だった。
「朱里は今どんな気持ち?」
ドライブも終盤になろうとしたときに真奈はいきなり保健室の先生みたいに優しく問いかける。
「えーっと……」
辛い?嬉しい?寂しい?清々した?悲しい?
ぱっと思いついた単語は全部正しいような気がしたし、全部間違っているような気もする。混ざりに混ざった私の感情はちゃんと捉えることができなかった。
「わかんない」
「そっか」
真奈はそれ以上なにも聞いてこなかった。話を逸らすことも、深堀りすることもなく運転をしてくれた。家までたどり着くと真奈は
「ご飯は食べるんだよー」
とお母さんみたいなことを言って帰っていった。
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