始まってしまった生活

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始まってしまった生活

「いってらっしゃーい!」  在宅ワークのパパに見送られてあの男と一緒に家を出る。 「マジで柊真さん、いい人過ぎね?」  家の門を出た瞬間に言われてバッと男を見た。  変わった声の低さと口調。  ふわっとあくびをする姿もさっきまでの優等生感はなくて警戒心は跳ね上がった。 「マドちゃんのその反応もね」  スルッと腰に手を回されて焦ると、男はケタケタと笑う。  そして、スッとすぐに悲しげな表情を作った。 「“ずーっと一緒に居る”って約束したのに……“結婚しよ”って言っただろ?ヒドいなぁ」  小指を私の小指に絡めて顔を覗き込まれる。 「なっ!!そ、それは“レンちゃん”とであってあなたじゃ……」  バッとその指を離したのに、 「俺がその“レン”なのに?」  今度は手をしっかり握り込まれた。 「違っ!!」 「違わねぇよ?いつも手を繋いで遊んでたのも、ギュッってしてたのも、一緒に寝てたのも……全部俺」  握ったその手に軽く男の唇が触れて焦る。  いつもふわっと笑って優しくてかわいかったあのレンちゃんが……。  綺麗な思い出を塗り替えられるようで受け入れられない。  手を引き抜いて距離を取る。しかし、 「俺は迎えに来たつもりなんだけど?」 「な、何が!?」  また簡単に距離を詰められて声が上擦った。 「女のレンは結婚できなくても、男の俺とはできるぞ?」  ニヤリと笑われてバカにされたようにしか思えない。 「からかわないで!」 「まさか!だから、俺はアメリカ行かなかったんだけど?」  こんな軽い言い方、信じられるわけがないっ!!
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