プロローグ――黒塗り同士の衝突――

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プロローグ――黒塗り同士の衝突――

 道路上を走る一台の霊柩車(れいきゅうしゃ)。リムジン型であり、黒塗りのボディがやたらと長い。  霊柩車といえば、金ぴかの日本建築等の装飾が施された豪華絢爛(ごうかけんらん)なものを思い浮かべそうだが、この霊柩車には、そのような印象はない。いたって地味であり、ぱっと見、霊柩車には見えない。  だが、それでも仏さんを乗せる車。そのシックなボディには高級感が漂っている。  最近、火葬場不足が深刻化してきている。  ただでさえ人口の割りに火葬場が少ないのに、高齢化が進み、需要が増えてきているにもかかわらず、住民の反対にあい、建設がなかなか進まないのだ。  葬儀場から火葬場まで、車で一時間程度。  だが、道路は思ったよりもすいている。  これなら予定よりも早く着きそうだ。  そう思いながら、交差点を右折したその時――  対向車線から、一台のクーペが法定速度をはるかに上回る猛スピードで突っ込んできた。  クーペの形状は流線形で、最高地上高が低い割りに全幅が大きく、やたらと平べったい。おそらく、スピードを追求するために、このような形になったのだろう。  こちらのボディもまた黒塗りであり、つやつやとしていて、やはり高級感が漂っている。  そんな黒曜石の刃物のようなクーペは、霊柩車の右折に気付いた時、慌てて減速したのだが、間に合わず、霊柩車と衝突してしまった。  霊柩車は転倒してすっ飛び、ガードレールに衝突して、ガードレールをひん曲げた。この時の衝撃のためか、リアハッチが開き、中から仏さんが飛び出してしまった。  仏さんは若い女性。長くて黒い髪と白装束のコントラストが印象的である。  一方、クーペは一瞬だけ止まったものの、すぐさま走り去っていった。
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