社長の一日

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社長の一日

「昨日はツイてなかったな……」  へこんだ愛車のボンネットを見て、思わずこぼしてしまった。  ボンネットのへこみは、昨日、取引先から会社に戻る途中で事故った時にできたものだ。  少しでも無駄な時間をなくしたい上、やはりスポーツカーは飛ばしてなんぼという考えがあるので、この時も結構なスピードで走っていた。もちろん、法定速度は大幅に超えている。警察に見つかったら、逮捕されるだろう。  とはいえ、警察がいつも見張っているわけではないし、そこら中オービスだらけというわけでもないし、それに、交通量が少なかったし、だから、大丈夫だろうと思っていたのだが、運悪く、リムジンらしき車が右折してきた。  やたらと長い車だった。  慌ててブレーキを踏んだのだが、間に合わなかった。  衝突して、相手の車は転倒。  転倒した車のリアハッチは開いているし、そばでは人が倒れているし、しかもその車は黒塗りで妙に高級車っぽかったから、もしかしたらヤバイ人の車かと思って、俺は慌てて車を発進した。  ……もし、本当にヤバイ人の車だったらどうしようか。  そうでなくても、後で警察に捕まるかもしれない。  いずれにしても、まずい状況ではある。  まず、相手が死んでいないことを祈ろう。警察に捕まったとしても、示談に持ち込めるかもしれない。  こんなことがあったからか、変な夢を見た。  横断歩道を渡っていたら、車にはねられてしまう夢。  歩行者信号は青だった。  だが、そこに横から車が突っ込んできたのだ。  車は銀色のセダン。ハイブリッドカーであり、老人からの人気がやたらと高い車で、この車を運転していたのも老人だった。  車にぶつかったところで、目が覚めた。  夢でよかったと思ったが、反面、あんなことがあったせいで、気持ち悪い夢を見てしまい、ツイていないとも思った。
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