社長の一日

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 川に突入した後も車は進み続ける。  ずぶずぶと水の中に入っていき、ついには車全体が水に包まれてしまった。  ヤバイ! と思ったが、車は進み続けている。  このまま向こう岸まで行ってくれないかな、と思った。  だが、そうはいかないようだ。  ハンドルが急に右に回り、川の流れと同じ向きに走り始めたのだ。  車は走り続ける。相変わらずブレーキを踏んでも止まらない。  まるで……  何者かが運転しているかのようだ。 「げっ!」  車内に水が入ってきた。 「ヤバイ! ヤバイ!」  俺はドアポケットから脱出用ハンマーを取り出す。  こうなったらなりふり構っていられない。  窓ガラスを割って、ここから脱出する!  ドアガラスを割ろうと、ハンマーを手にした腕を振り上げたその時―― 「うわあああぁーっ!!!」  ドアガラスに若い女がへばりついていた。  女は水中で長い髪を逆立て、両手と顔をガラスに押し付けながら、こちらをぎょろりと(にら)んでいる。 「あわわ……」  何者だ!? こいつは!?  いや、それどころではない!  さっさと脱出だ!  俺はシートベルトを外し、助手席の方に移動する。  助手席側のドアガラスを割るのだ。  俺は再び腕を振り上げる。すると―― 「ぎゃあああぁーっ!!!」  再び女が現れた。先程と同様にへばりついている。 「くそっ!!!」  今度はフロントガラスを割ろうとする。すると―― 「げえっ!」  フロントガラス側に女が現れた。  一体何なんだ! こいつは!
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