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いっそのこと、この女ごとハンマーで殴ろうか。
そう思い、フロントガラスにハンマーを叩きつけようとする。
だが……
ハンマーを持っている腕が動かない。
何事かと思って見てみると……
女が運転席に座っていた。俺の手首を握りながら。
「うわあああぁーっ!!!」
思わず悲鳴を上げてしまった。これで何度目だ?
女が車の外にいて、ガラスに顔と手をくっつけていた時は、どういう服を着ているのか、よくわからなかった。
だが、今ならどういう服を着ているのかがわかる。
白装束を着ているのだ。
これで思い出した。
あの時、霊柩車から飛び出した死体だ。
「お前、昨日、霊柩車で運ばれていた奴か?」
「…………」
女は答えない。
「悪かったよ! 車をぶつけてしまって。謝るからさ……」
「…………」
「そうだ! 示談金、いくら欲しい? ありったけのお金をやるからさ……」
「…………」
「何か言ってくれよ!」
……そう言った後に、馬鹿な発言だと気が付いた。
こいつが霊柩車の死体と同一人物であり、しかも密室である車内にいつのまにか入り込んでいたのだとすると、こいつはこの世のものではない可能性が高い。
というか、どう考えてもこの世のものではない。
化けて出てきた奴だ。
話が通じる相手ではないかもしれない。
「あ、ああ……」
水は既に俺の肩の辺りまで来ている。
この後も浸水は続き、車内が水で満たされるまで、たいして時間はかからなかった。
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