こいつのせいで目が覚めてしまった

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こいつのせいで目が覚めてしまった

 川の底に沈んだ黒塗りの高級スポーツカー。  この中には男の死体がある。  男は社長故、身だしなみにはしっかりと気を使っていた。  まだ死んだばかりだからか、容姿はきちんとしたままだ。よく見ると、なかなかのイケメンである。  だが、それも近いうちに醜く無様なものになるだろう。  いい気味だわ。  青年実業家でIT企業の社長。聞こえはいいが、ろくな奴じゃなかった。  会社がビルの一室を借りたもの……これは別にいい。  IT企業といっても、やっていることは派遣。上っ面だけ正社員扱いしている。あまりいいイメージがないけど、こういう企業は結構あるらしい。これも、まあ……いいだろう。百歩譲ってだが。  会議の内容をこっそり聞いていたけど、あいつを説得して遠隔地にある得意先に送り込めないかとか、メーカーに常駐しているSIer(エスアイヤー)で働いている者全員に自社名を明かさないよう指示を出せとか、待機が長引いている者にどうやって自主退職を促すかとか、ろくでもなさそうなものが、やたらと目立った。  いずれ、SI事業も行うようなことを言っていたけど、きっとろくなものにならないだろう。偽装請負でもやりそうだ。  ……それ以前に、こいつ!  当て逃げをした。  それも私が乗っていた霊柩車に。  せっかく、眠っていたのに、こいつのせいで目が覚めてしまった。  衝撃を感じて目が覚めた私は、車の外に放り出された。  この時、黒塗りの高級そうなスポーツカーが走り去るのを見た。  このことがきっかけで、私は生前のことを思い出した。
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