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大学の前にある横断歩道。
歩行者信号は青だった。
私は迷わず渡ることにした。
ところが、一台の車が横から突っ込んできたのだ。
車は老人に人気があることで有名なハイブリッドカー。ボディは銀色。
運転席に老人の姿が見えたけど、その直後に私の視界は真っ暗になり、やがて何も感じなくなった。
けど、沸々と怒りだけは湧いてくる。
この日、私は先輩に告白するつもりだった。
大学を卒業したら、食品業界に就職して、マーケターになるつもりだった。
けれども、叶わなくなってしまった。
悔しくてしかたなかった。
私をひき殺したじじいを呪い殺したかった。
けれども、お坊さんのお経を聞いていたら、眠たくなってしまった。
何も感じなくなったはずなのに、なぜかお経だけは聞こえてきた。
このまま眠ったままになってしまうのかと思っていたけど……
例の事故で目が覚めた。
ついでにチート能力も手に入れたみたい。
Web上によくある、三文小説ですらない零文小説に、異世界に転生したらチートスキルがもらえたというシチュエーションがよくあるけど、私の場合は、現世に留まったままでももらえたみたい。
そのおかげで私は爆走するスポーツカーを追いかけることができた。
モスマンは特急列車以上のスピードで走ることができるらしいけど、今の私なら、モスマンはおろか、音速で空を飛ぶという天狗にも負ける気がしない。
こうして、私はこいつを追いかけ続けた。
許せる人間か見極めるために。
許せたら生かし、許せなかったら死を与えるのだ。
判定は死だった。
事故を起こしたのに、まるで反省していないし、やっている仕事もろくなものではない。
それに、こいつ……
命乞いする時に、法定速度を超えるような運転はしない、ということを一言も言わなかった。
そんな発想ができないほど、あるいは嘘であっても言いたくないほどの、スピード狂もしくは時間ケチだったのかしら。どちらにしても、こんな奴を放っておいたら、悲劇が生まれるのは想像だに難くない。
だから、車に憑依して川底に向かい、こいつの脱出を阻止して、溺死させた。
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