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⚠️この物語は、当たり前ですがフィクションです!(一応念のため💦)
「…では、再度確認します。キックバックは無かった。全ては秘書の不手際だ。…間違いありませんね?」
「ああそうだ。記事は事実無根。儂は関わってない。それよりナンだ。茶の一つも出さんのか検察は。」
「…申し訳ありません。後藤先生が速やかに事実を述べてくださると思っておりましたので。では再度」
「君、幾つ?」
「は?」
ーー東京都内のホテルの一室。
一週間程前に、最大与党『民営党』が、政治資金パーティー券を使ったキックバック不正を行っていると言う告発があり、藤司のいる東京地検特捜部は捜査を開始した。
疑惑の議員は3名。内2名はキックバックを認めた為速やかな処理が行われたが、大臣経験もあり、民営党の最大派閥『白木派』所属の後藤裕三だけは、2週間経っても、どんなに証拠と聴取を揃えても、やってないの一点張り。
屈強揃いの特捜部の検察官も辟易して根を上げていく中、最後の切り札として文字通りエースの藤司にお呼びがかかったのだが…
「……質問の意図が分かりかねますが?」
「君、出身大は?学部は?」
「ですから質問」
「君、ひょっとしてバカか?」
「あぁ?!」
ピシッと、藤司のこめかみに青筋が走ったので、事務官の山際はサッと青ざめ悟る。
ーーこれ以上はマズイ…と。
「……ワシ、いえ、私の越し方行末が今回の先生の件と何の関係があるのか、分かりかねますが?」
「大方、人数合わせで呼ばれたクチだろ?今までの検察官は、儂の顔を見るなりすぐさま労を労うように茶を出してきたと言うのに…」
「それはそれは、配慮が足りず、申し訳ありません……山際。」
「は、はいっ!!!!」
弾かれた様に山際は立ち上がり、慌てて備え付けの給茶機で茶を作りテーブルに置くと、後藤はそれを藤司に浴びせる。
「………」
膝に置いた拳がフルフルと震え、ただ黙って俯いてる藤司に、山際は戦慄する。
もうだめだ。
早く、早くなんとかしないと…
山際はゴクリと生唾を飲み込み、藤司に歩み寄る。
これ以上この場に藤司をいさせたら、彼を被告人にしてしまうと、長年の勘が警鐘を鳴らしているのだ。
「け、けけっ、検事。と、とととととりあえず、き、着替えてきましょう!ご、後藤先生も、暫く外の空気を吸われては?」
その言葉に、後藤はニンマリと下卑た笑みを浮かべる。
「仕方がない。君達が『どうしても』と言うなら、今しばらく時間をくれてやろう。くれぐれも手短に頼むよ?君達と違って、儂は日本の今と向き合っているのだからね。」
「は、はい……」
*
ズドン!
ズドン!
「………」
その場にいた同僚の誰もが戦慄し閉口する鈍い音が、捜査本部に響き渡る。
「コロス…もう絶対ブッ殺す!!後ろから回り込んで羽交い締めにして縊り殺したる!!…あンのクソボケ腹黒古狸!!そもそも日本の首都は京都や!!江戸の野良犬が天皇はん誑かして」
「お、落ち着け相原!!それ以上は言うな!色んな所から睨まれる!!(作者が)」
「山際!!早く!『例の薬』!!」
「は、はぃぃぃ!!!」
言い知れぬ黒いオーラを纏いながら壁を殴り続ける藤司を宥める篠宮と安久利に急かされ、山際はごちゃごちゃした藤司の鞄を漁り、目当てのものを見つけると、直様藤司達の元へ行く。
「あ、ありました!薬!!」
「よ、よし!ほーら相原!愛しい愛しい『あやね』さんだぞー!?」
「ああっ?!」
鬼のような顔で先輩である安久利を睨みつける藤司だったが、彼が差し出したスマホの待ち受けを見た瞬間、憑き物が落ちたような穏やかな表情に変わってきたので、チャンスとばかりに篠宮と安久利は畳み掛ける。
「なあ?綺麗だろ〜?こんな美人泣かせるような事、しないよなぁ〜?」
「うんうん。きっと彼女も言ってるぞー。『相原君!巨悪に負けないで!』って……多分。」
「シッ!!余計なこと言うな篠宮!!」
そんな上司達のやりとりを見ながら、山際は代えのシャツとおしぼりを藤司に渡す。
「さ、行きましょう検事。検事なら出来ますよ。大丈夫。」
ーー大丈夫。
スマホの中で微笑む愛しい絢音につられて、藤司の口角もゆっくり上がってきたので、3人は胸を撫で下ろす。
「せやな!!ワシらは法の番人の精鋭!!キッチリ司法で裁かんとな!!おおきに絢音!!先輩!山際!ワシ、着替えてくる!!」
「は、はい!その息です!!検事!」
「ん!」
そうして軽やかな足取りで、仮眠室に指定されている部屋に向かって行く藤司を見送りながら、3人は荒ぶる彼を鎮めた女神をまじまじと見る。
「どー見ても彼女じゃねーよな。お袋にしては、似てねーし……安久利、こんな女優いたか?」
「さあ?大方地方で世話になった飲み屋のママかなんかだろ。つか事実だったらもったいねー。十分銀座の一流クラブのママでイケるぞ。」
「ははは…」
苦笑いを浮かべる山際に、2人はズイッと詰め寄る。
「お前、相原といつも一緒だろ?なんか知らねーの?」
「つか、実は正体知ってる風?」
「ま、まさか!!わ、私…揃える書類がありますから、これで!!」
「?」
疑惑の眼差しから逃げるように駆けていく山際は、独りごちた。
ーー言えるわけない。
彼女が…絢音が、東京地検特捜部のエースのハートを射止めた初恋の君であり、同じ検察官務めの男の妻だなんて……
酔った勢いとは言え、聞くべきじゃなかったと後悔しながらも、山際は藤司のスマホの中で微笑む彼女に笑いかける。
「……これからも、検事を支えてくださいね?あやねさん。」
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