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伸明に会うべきか、否か、何度も、自答した…
いや、
何度も、何度も、自答した…
自分でも、嫌になるくらい、繰り返し、自問自答した…
諏訪野伸明…
五井家当主…
たしかに、会いたい…
正直、結婚したい…
それが、偽らざる本音…
ナオキのことは、好きだが、ナオキは、すでに、私の家族…
例えれば、私にとって、父や兄や弟のような存在…
私にとって、この上なく、大事なひとでは、あるが、もはや、ときめかない…
長くいっしょに、いすぎたからだ…
だから、ナオキのことは、すべて、知っている…
いや、
知り過ぎている(笑)…
だから、いっしょに、いるのは、この上なく、楽だし、居心地も、いいのだが、いかんせん、ときめかない…
ときめいたのは、出会って、最初のうちだけ…
だから、もはや、刺激がなくなった(笑)
…
一方、伸明は、違う…
出会って、まだ、一年と経っていないし、正直、まだ、キスだけの関係…
カラダの関係も、ない(苦笑)…
だから、新鮮というか…
正直、いっしょに暮せば、伸明と同じ…
そのうちに同じになるのは、わかっている…
もちろん、伸明とナオキでは、人間が違うから、同じではないが、いっしょに、暮らせば、こんなものかと、思う…
そういうことだ(笑)…
つまるところ、これは、食事と似ている…
どんなものか、食べてみなければ、わからない…
そして、食べてみて、初めて、これは、おいしいと、気づく…
が、
同時に、いくら、おいしいものでも、毎日食べれば、誰でも、飽きる…
それと、似ている…
要するに、結婚して、最初のうちは、誰でも、新鮮だが、それになれると、それが、普通になり、新鮮さが、なくなるということだ(笑)…
だから、これは、何度、結婚しても、同じ…
誰でも、同じだろう…
食事と同じく、最初は、新鮮だが、そのうちに、その味に慣れて、それが、普通になり、最初、感じたおいしさは、感じなくなる…
ただ、違うのは、それが、おいしいか、否か?
あるいは、別の言い方をすれば、どれだけ、おいしいか、否か?
その違いだ…
そして、それは、結婚相手の年収によって、ぶっちゃけ、生活レベルが変わる…
単純に比べれば、年収五百万のひとと、年収一千万のひとと、結婚するのでは、生活レベルが、違うだろう…
誰でも、わかることだ…
それが、結婚する相手の違いによって出る…
そして、もう一つ…
相性というか…
いっしょに暮して、ハッキリ言って、楽しいか、否か?
その違いだ…
自分は、以前、付き合った男は、いっしょにいて、普通だったが、今度の男は、いっしょにいて、いつも楽しいとか…
要するに、互いの相性なのだろう…
これも、また、いっしょに、暮らしてみなければ、わからない…
当たり前のことだ…
そして、実は、これが、一番大事…
いっしょにいて、楽しいか否かが、一番大事だ…
いくら、お金持ちと、結婚しても、楽しくなければ、大変だ…
正直、つまらないから、そのはけ口を不倫に求めたり、趣味に求めたりする…
つまりは、自分自身の楽しみを、夫以外に探すということだ…
だから、そういう意味では、ナオキのことは、わかっている…
今では、空気のような存在…
私を包む空気のように、安心して、心地よい…
しかしながら、伸明のことは、わかっていない…
だから、試してみなければ、わからない…
いっしょに暮してみなければ、わからない…
そういうことだ…
そして…
そして、やはりというか…
憧れがある…
天下に名の知れた五井家の当主に憧れがある…
五井というブランドに憧れがある…
それが、正直なところ…
いわゆる、ミーハー…
私は、つくづくミーハーなのだと、思う…
正直、これまで、そんなことは、考えたことは、なかった…
なぜ、考えたことが、なかったのか?
それは、私の周りにいなかったからだ…
伸明のようなお金持ちは、見たこともなかったからだ…
だから、考えることが、なかった…
当たり前のことだ…
これは、例えれば、芸能人やスポーツ選手…
テレビやネットで見て、
…スゴイ!…
とか、
…カッコイイ!…
と、憧れるのは、誰にもあることだが、それで、その芸能人やスポーツ選手と、本気で、結婚したいと、思う女は、普通は、いない…
いるとすれば、それは、接点があるから…
たまたま、自分の働く飲食店の常連だったり、自分の兄弟が、その芸能人やスポーツ選手の中学や高校の同級生で、知っていたり…
要するに、身近に知っているから、もしかしたら、私も、結婚できるかも…
と、考える…
それが、普通だ…
だから、私も、それと同じ…
同じだ…
それまで、伸明のような大金持ちとは、会ったことも、なかった…
接点もなかった…
それが、接点ができた…
だから、憧れる…
まるで、少女のように、憧れる…
そういうことだ…
そして、これは、笑える…
実に、笑える…
なぜなら、すでに、32歳になり、いっぱしの恋愛経験もあり、事実上、結婚していた女が、相手が、大金持ちの御曹司と聞けば、目の色を変えて、憧れる…
だから、笑える…
実に、笑える…
結婚というものが、どういうものだか、わかっている女が、中高生のように、憧れる…
ある意味、バカの極み…
それまでの人生経験が、まるで、役に立っていない(爆笑)…
32歳にもなっても、まだ思考レベルは、中高生と、変わらない…
変わらないどころか、まったく同じ…
なにも、変わらない…
だから、笑えるのだ…
あらためて、思った…
そして、その夜は、ずっと、そんなことを、考え込んでいた…
考え続けていた…
伸明のこと…
ナオキのことを、考え続けていた…
同時に、自分の立場を思った…
これでは、まるで、私が、主導権を握っているよう…
まるで、私が、伸明か、ナオキか、どっちの男と結婚するのか?
決める主導権を握っているかのよう…
そう、思った…
が、
事実は、違う…
全然、違う(笑)…
たしかに、伸明は、私を好きかも、しれないが、どれほど、私を好きなのか?
それは、わからない…
ずっと、以前、FK興産にいたとき、ある若い男の社員が、他の若い女の社員を好きなのでは?
と、職場に話題になり、私も、職場は、違ったが、その職場に顔なじみの同僚がいて、その話に参加したことがある…
要するに、恋バナで、盛り上がった経験がある(笑)…
その職場の若い男が、いつも、その若い女を見ている…
だから、当然、好きなんだろ?
と、いうわけだ…
そして、いつのまにか、なぜ、告白しないんだろ?
という話になり、それで、話は、盛り上がって、終わったが、その後、偶然、その若い男と、仕事で、接点ができ、親しくなった…
だから、直接、その男に、聞いた…
「…以前、こんな噂を聞いたことがあるけど…」
と、遠回しに言って、聞いた…
すると、予想外の答えが、返ってきた…
その若い男が、言うには、
「…この会社の中だから、あのコが、好きなんですよ…」
と、言ってきた…
私は、最初、意味がわからなかった…
が、
よくよく聞いてみると、
「…ただ、見ているのが、好き…付き合うつもりは、ない…」
と、断言した…
私は、仰天して、
「…それは、どうして?…」
と、聞くと、
「…そこまで、好きじゃない…」
と、返答する…
要するに、会社にいる若い女の数は、限られている…
だから、その中では、好きなんだけれども、付き合いたいと、思うほど、好きじゃない、ということだ…
私は、それを、聞いて、唖然としたが、少し考えて、
…そういうものかな…
と、納得したものだ…
誰もが、昨日今日、生まれたわけではない…
なにを言いたいかと、言えば、会社に入るまで、高卒では、18年、大卒では、22年、生きている…
だから、それまで、誰もが、それなりに、多くの人間を見ている…
多くの人間=多くの男と女を見ている…
つまりは、その若い男が、それまで、見てきた女の中で、もっと、良い女がいたということだ…
ぶっちゃけ、もっと、キレイだったり、頭が、良かったり、性格が良かった女が、いたということだ…
ただ、この会社の中では、その女のコが、好き…
しかしながら、付き合いたいと、思うほど、好きではない…
そういうことだ…
私は、それを、聞いて、考え込んだ…
実に、考え込んだ…
なぜなら、その答えを聞いて、
「…ウソを言うな!…」
とか、
「…あんなに見ているんだ! そんなわけ、ないだろ!…」
と、怒鳴る者もいるだろうからだ…
要するに、信じない者もいるだろうからだ…
その一方、その言葉を信じる者もいる…
現に、私は、その若い男の言葉を信じた…
世の中、そういうこともあるだろうと、思うからだ…
そして、それを、考えたとき、つくづく、ひとが、どう思っているか、わからないなと、思った…
その若い男の言い分と、周囲の見方が、まったく、違う…
で、答えを、聞いたところで、それを信じない者も、いるだろう…
そう、思った…
そして、私が、今、なぜ、そんなことを、思ったのか?
それは、伸明のことを、考えたからだ…
伸明が、私を好きだと、言っても、どれほど、好きなのか、わからないからだ…
ホントは、私より、もっと、好きな女がいる…
でも、手を出せないとか?
例えば、相手がすでに、結婚しているとか?
そんな可能性もある…
だから、私を好き…
そういう可能性もある…
一方、ナオキは、どうか?
ナオキは、たしかに、私を好き…
しかしながら、私以外にあっちの女、こっちの女と、いろいろな女に見境なく手を出している…
要するに、女好きなのだ…
ただ、ナオキは、カラダはともかく、心は、繋がっている…
そう、思っている…
が、
伸明は、わからない…
なにを、考えているのか、わからない…
まあ、いずれにしろ、どちらにしろ、完璧な人間はいない…
当然、欠点はある…
そして、その欠点を自分が、受け入れることが、できるか、否か…
許容できるか、否か…
が、大事だと、思った…
そして、それを、どう考えても、二人より、劣る私が、考え続けていた…
自分より、はるかに財産を持つ、二人を、二人より、はるかに能力の劣る私が、評価していた…
上から、目線で、評価していた…
本当なら、私は、選ばれる立場…
にもかかわらず、選ぶ立場で、評価していた…
これは、笑える…
実に、笑える…
まさに、バカの極み…
バカの極み=本物のバカだ…
私は、思った…
私は、考えた…
そして、そんなことを、考えながら、いつのまにか、ウトウトして、目が覚めると、朝になっていた…
我ながら、バカ…
32歳になるにも、かかわらず、こんなことを、考えて続けるなんて…
いかに、成長しないかの見本だった…
そして、そんな成長のかけらもない女を、あの伸明は、ホントに好きなのだろうか?
と、あらためて、自問自答した…
<続く>
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