伸明 45

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 伸明に会うべきか、否か、何度も、自答した…  いや、  何度も、何度も、自答した…  自分でも、嫌になるくらい、繰り返し、自問自答した…  諏訪野伸明…  五井家当主…  たしかに、会いたい…  正直、結婚したい…  それが、偽らざる本音…  ナオキのことは、好きだが、ナオキは、すでに、私の家族…  例えれば、私にとって、父や兄や弟のような存在…  私にとって、この上なく、大事なひとでは、あるが、もはや、ときめかない…  長くいっしょに、いすぎたからだ…  だから、ナオキのことは、すべて、知っている…  いや、  知り過ぎている(笑)…  だから、いっしょに、いるのは、この上なく、楽だし、居心地も、いいのだが、いかんせん、ときめかない…  ときめいたのは、出会って、最初のうちだけ…  だから、もはや、刺激がなくなった(笑) …  一方、伸明は、違う…  出会って、まだ、一年と経っていないし、正直、まだ、キスだけの関係…  カラダの関係も、ない(苦笑)…  だから、新鮮というか…  正直、いっしょに暮せば、伸明と同じ…  そのうちに同じになるのは、わかっている…  もちろん、伸明とナオキでは、人間が違うから、同じではないが、いっしょに、暮らせば、こんなものかと、思う…  そういうことだ(笑)…  つまるところ、これは、食事と似ている…  どんなものか、食べてみなければ、わからない…  そして、食べてみて、初めて、これは、おいしいと、気づく…  が、  同時に、いくら、おいしいものでも、毎日食べれば、誰でも、飽きる…  それと、似ている…  要するに、結婚して、最初のうちは、誰でも、新鮮だが、それになれると、それが、普通になり、新鮮さが、なくなるということだ(笑)…  だから、これは、何度、結婚しても、同じ…  誰でも、同じだろう…  食事と同じく、最初は、新鮮だが、そのうちに、その味に慣れて、それが、普通になり、最初、感じたおいしさは、感じなくなる…  ただ、違うのは、それが、おいしいか、否か?  あるいは、別の言い方をすれば、どれだけ、おいしいか、否か?  その違いだ…  そして、それは、結婚相手の年収によって、ぶっちゃけ、生活レベルが変わる…  単純に比べれば、年収五百万のひとと、年収一千万のひとと、結婚するのでは、生活レベルが、違うだろう…  誰でも、わかることだ…  それが、結婚する相手の違いによって出る…  そして、もう一つ…  相性というか…  いっしょに暮して、ハッキリ言って、楽しいか、否か?  その違いだ…  自分は、以前、付き合った男は、いっしょにいて、普通だったが、今度の男は、いっしょにいて、いつも楽しいとか…  要するに、互いの相性なのだろう…  これも、また、いっしょに、暮らしてみなければ、わからない…  当たり前のことだ…  そして、実は、これが、一番大事…  いっしょにいて、楽しいか否かが、一番大事だ…  いくら、お金持ちと、結婚しても、楽しくなければ、大変だ…  正直、つまらないから、そのはけ口を不倫に求めたり、趣味に求めたりする…  つまりは、自分自身の楽しみを、夫以外に探すということだ…  だから、そういう意味では、ナオキのことは、わかっている…  今では、空気のような存在…  私を包む空気のように、安心して、心地よい…  しかしながら、伸明のことは、わかっていない…  だから、試してみなければ、わからない…  いっしょに暮してみなければ、わからない…  そういうことだ…  そして…  そして、やはりというか…  憧れがある…  天下に名の知れた五井家の当主に憧れがある…  五井というブランドに憧れがある…  それが、正直なところ…  いわゆる、ミーハー…  私は、つくづくミーハーなのだと、思う…  正直、これまで、そんなことは、考えたことは、なかった…  なぜ、考えたことが、なかったのか?  それは、私の周りにいなかったからだ…  伸明のようなお金持ちは、見たこともなかったからだ…  だから、考えることが、なかった…  当たり前のことだ…  これは、例えれば、芸能人やスポーツ選手…  テレビやネットで見て、  …スゴイ!…  とか、  …カッコイイ!…  と、憧れるのは、誰にもあることだが、それで、その芸能人やスポーツ選手と、本気で、結婚したいと、思う女は、普通は、いない…  いるとすれば、それは、接点があるから…  たまたま、自分の働く飲食店の常連だったり、自分の兄弟が、その芸能人やスポーツ選手の中学や高校の同級生で、知っていたり…  要するに、身近に知っているから、もしかしたら、私も、結婚できるかも…  と、考える…  それが、普通だ…  だから、私も、それと同じ…  同じだ…  それまで、伸明のような大金持ちとは、会ったことも、なかった…  接点もなかった…  それが、接点ができた…  だから、憧れる…  まるで、少女のように、憧れる…  そういうことだ…  そして、これは、笑える…  実に、笑える…  なぜなら、すでに、32歳になり、いっぱしの恋愛経験もあり、事実上、結婚していた女が、相手が、大金持ちの御曹司と聞けば、目の色を変えて、憧れる…  だから、笑える…  実に、笑える…  結婚というものが、どういうものだか、わかっている女が、中高生のように、憧れる…  ある意味、バカの極み…  それまでの人生経験が、まるで、役に立っていない(爆笑)…  32歳にもなっても、まだ思考レベルは、中高生と、変わらない…  変わらないどころか、まったく同じ…  なにも、変わらない…  だから、笑えるのだ…  あらためて、思った…    そして、その夜は、ずっと、そんなことを、考え込んでいた…  考え続けていた…  伸明のこと…  ナオキのことを、考え続けていた…  同時に、自分の立場を思った…  これでは、まるで、私が、主導権を握っているよう…  まるで、私が、伸明か、ナオキか、どっちの男と結婚するのか?  決める主導権を握っているかのよう…  そう、思った…  が、  事実は、違う…  全然、違う(笑)…  たしかに、伸明は、私を好きかも、しれないが、どれほど、私を好きなのか?  それは、わからない…  ずっと、以前、FK興産にいたとき、ある若い男の社員が、他の若い女の社員を好きなのでは?  と、職場に話題になり、私も、職場は、違ったが、その職場に顔なじみの同僚がいて、その話に参加したことがある…  要するに、恋バナで、盛り上がった経験がある(笑)…  その職場の若い男が、いつも、その若い女を見ている…  だから、当然、好きなんだろ?  と、いうわけだ…  そして、いつのまにか、なぜ、告白しないんだろ?  という話になり、それで、話は、盛り上がって、終わったが、その後、偶然、その若い男と、仕事で、接点ができ、親しくなった…  だから、直接、その男に、聞いた…  「…以前、こんな噂を聞いたことがあるけど…」  と、遠回しに言って、聞いた…  すると、予想外の答えが、返ってきた…  その若い男が、言うには、  「…この会社の中だから、あのコが、好きなんですよ…」  と、言ってきた…  私は、最初、意味がわからなかった…  が、  よくよく聞いてみると、  「…ただ、見ているのが、好き…付き合うつもりは、ない…」  と、断言した…  私は、仰天して、  「…それは、どうして?…」  と、聞くと、  「…そこまで、好きじゃない…」  と、返答する…  要するに、会社にいる若い女の数は、限られている…  だから、その中では、好きなんだけれども、付き合いたいと、思うほど、好きじゃない、ということだ…  私は、それを、聞いて、唖然としたが、少し考えて、  …そういうものかな…  と、納得したものだ…  誰もが、昨日今日、生まれたわけではない…  なにを言いたいかと、言えば、会社に入るまで、高卒では、18年、大卒では、22年、生きている…  だから、それまで、誰もが、それなりに、多くの人間を見ている…  多くの人間=多くの男と女を見ている…  つまりは、その若い男が、それまで、見てきた女の中で、もっと、良い女がいたということだ…  ぶっちゃけ、もっと、キレイだったり、頭が、良かったり、性格が良かった女が、いたということだ…  ただ、この会社の中では、その女のコが、好き…  しかしながら、付き合いたいと、思うほど、好きではない…  そういうことだ…  私は、それを、聞いて、考え込んだ…  実に、考え込んだ…  なぜなら、その答えを聞いて、  「…ウソを言うな!…」  とか、  「…あんなに見ているんだ! そんなわけ、ないだろ!…」  と、怒鳴る者もいるだろうからだ…  要するに、信じない者もいるだろうからだ…  その一方、その言葉を信じる者もいる…  現に、私は、その若い男の言葉を信じた…  世の中、そういうこともあるだろうと、思うからだ…  そして、それを、考えたとき、つくづく、ひとが、どう思っているか、わからないなと、思った…  その若い男の言い分と、周囲の見方が、まったく、違う…  で、答えを、聞いたところで、それを信じない者も、いるだろう…  そう、思った…  そして、私が、今、なぜ、そんなことを、思ったのか?  それは、伸明のことを、考えたからだ…  伸明が、私を好きだと、言っても、どれほど、好きなのか、わからないからだ…  ホントは、私より、もっと、好きな女がいる…  でも、手を出せないとか?  例えば、相手がすでに、結婚しているとか?  そんな可能性もある…  だから、私を好き…  そういう可能性もある…  一方、ナオキは、どうか?  ナオキは、たしかに、私を好き…  しかしながら、私以外にあっちの女、こっちの女と、いろいろな女に見境なく手を出している…  要するに、女好きなのだ…  ただ、ナオキは、カラダはともかく、心は、繋がっている…  そう、思っている…  が、  伸明は、わからない…  なにを、考えているのか、わからない…  まあ、いずれにしろ、どちらにしろ、完璧な人間はいない…  当然、欠点はある…  そして、その欠点を自分が、受け入れることが、できるか、否か…  許容できるか、否か…  が、大事だと、思った…  そして、それを、どう考えても、二人より、劣る私が、考え続けていた…  自分より、はるかに財産を持つ、二人を、二人より、はるかに能力の劣る私が、評価していた…  上から、目線で、評価していた…  本当なら、私は、選ばれる立場…  にもかかわらず、選ぶ立場で、評価していた…  これは、笑える…  実に、笑える…  まさに、バカの極み…  バカの極み=本物のバカだ…  私は、思った…  私は、考えた…  そして、そんなことを、考えながら、いつのまにか、ウトウトして、目が覚めると、朝になっていた…  我ながら、バカ…  32歳になるにも、かかわらず、こんなことを、考えて続けるなんて…  いかに、成長しないかの見本だった…  そして、そんな成長のかけらもない女を、あの伸明は、ホントに好きなのだろうか?  と、あらためて、自問自答した…                <続く>
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