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「綾香ちゃん、こっち」
カフェのドアを開けるとすぐ、彼女の声がした。
「栞、久し振り」
「うん、久し振り」
ぎこちない挨拶。
「元気だった?」
「うん」
ぎこちない笑顔。
「今、何してるの?」
来た。一番聞かれたくない質問。
「えー、ちょっと個人事業主を…」
「へええ、すごいね」
感嘆とも嫌味ともつかない反応に、苦笑いで応える。
「栞は〇大生なんだってね。…すごいね」
「すごくないよ。今時大学とか普通じゃん?」
その普通に進めなかった私は、お腹に力を入れて、正直に言った。
「すごいよ。大学入学資格とって、受験勉強頑張って合格したんだよ?私は出来ない。…出来なかった。栞はすごい」
「……ありがとう」
栞は静かに息を吐いた。
「二番目に聞きたかった言葉を聞けた」
ドキっとした。一番聞きたかった言葉、それは、多分……
「ごめんなさい!」
勢いよく、頭を下げた。テーブルにおでこがぶつかる。
そして、ずっとずっと言いたかった言葉を、言った。
「本当にごめんなさい。許してなんて言わない。許してくれなくて当然だから。私、最低だった。受験に失敗したのも、罰が当たったんだと思う。本当に、本当にごめんなさい!」
椅子を降りて土下座したいところだったが、人がいる店内で、さすがにそれは迷惑だろう。
しばしの沈黙の後、栞が言う。
「受験、失敗したんだ」
え、そこ?と思って顔を上げると目が合った。
「うん、栞が通ってる〇大……」
「そっか」
また少し沈黙があった後、栞がころころと笑った。
「ごめんね、今心の中で『ざまぁ』って思っちゃった。私、性格悪いね」
「いいよ、ざまぁされて当然なんだから」
「良くないよ。友達なら」
「……」
「もう一度、友達にならない?」
「……」
「……いや?」
「栞こそ、いいの?いじめられてるのに見捨てたんだよ。私、最低じゃん」
「誰だって、あんな状況怖いもの。見捨てたって仕方ないよ」
「仕方なくないよ」
「仕方ない」
「……栞、心が広すぎるよ!」
「そんなことないって。この先一緒にいるとき心の中で『私が受かった大学落ちたんだよねー、ざまぁ』って思うかも知れないし。私性格悪いから」
「全然、悪くないよ」
「友達に、戻ってくれる?」
「……うん」
二人で笑いあった。
六年ぶりに笑いあった。
これからはずっと笑いあえるんだ。
長年のわだかまりが解けて気分を良くした私は、栞を誘ってみる。
「これから、私の仕事場見ていかない?」
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